14.『変わったこと』と『お絵かきしりとり』
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辺境伯の寝室で目を覚ます。
それはいつものことだが、魔獣討伐で行った『魔の森』近くの砦から帰ってからは、辺境伯の寝室で寝起きをするようになった。
今までは『子供部屋で寝る→辺境伯の寝室で起きる→子供部屋に戻る、着替える』だったが、いちいち子供部屋に戻って着替えをするのが面倒になったからだ。
辺境伯の寝室で目が覚めるのなら、いっそのこと、辺境伯の寝室で寝ればいいのでは?? と。
私の精神衛生的にもいい。
因みに。辺境伯の寝室にあるクローゼットには、すでに私の着替えも収納されている。
今日のお目覚めは、今までになく最悪だ。
お腹の上に辺境伯の腕が乗っかっていて、重くて目が覚めた。いや、息苦しくて……? 「ぐふっ」とか言って目が覚めたような……。
……これは、乗っかっていてじゃなく、乗っかってか?
急に「重ッ」って目ぇ、覚めないよね?
成人男性の腕が一本乗ってるだけでも重い(と思う)のに、ゴリラの腕だから余計にだ。
横を向く。
今日も至近距離に顔がある。
顔がいい――それがまた腹立たしい。
いい加減、スッキリ爽やかに目覚めたいものだ……。
腕を「てい!」と退かしたかったが、横になったままだからか、うんともすんともしない。ただただ、私が疲れるだけだった。おのれ、重力めぇ……!
なので、よじよじ横に動き、自分から避けることにした。広いベッドで良かったね!
辺境伯の腕から抜け出して起き上がり、「ふいー」と一息吐いて、額の汗を拭う仕草をする。すると、さっきまで私が居た場所を辺境伯の手が、何かを探すように動きだした。
…………もしや、私を探してらっしゃる……? こわ。
脱け出して直ぐとか、こっわ。
何かセンサーでも付いてんの?? こわ。
ベッドから降りて、部屋を出ようと思ったら――ベッドを降りる前に、起きた辺境伯に取っ捕まって二度寝となりましたとさ。
私がもたもたしてたからか、それとも辺境伯が早かったのか――――辺境伯が早かったのか……。
筋トレしなくては……!
◆
「ふんふんふーん♪」
一度目の目覚めは最悪だったが、それ以外は何てことなく。いつも通りの朝を迎えた。
朝食を終え、午前の勉強。
十時のおやつを食べ終え、老執事が用事で部屋を離れている間、私は五冊目になるスケッチブックに自作クレヨンで絵を描いていた。グリグリ~。
う~ん。そろそろ鉛筆で描こうかな? クレヨン(もどき)だと細かく描けないんだよねぇ……。でも上手く描ける気がしない。
……練習あるのみ! か。むむむ……悩ましい……。
ガチャっと戸の開く音がし、老執事が戻ってきたと思い、扉の方を見ると、そこにいたのは辺境伯だった。
そうだ。老執事なら戸を開ける前にノックをするし、こちらの返事を待つ。なんのアクションも無く入ってはこない。
何の用だ……? 訝しげに辺境伯を見る。
「パパ……このじかんは、しごとでしょ?」
「終わった」
「ダ……! むぐ」
ダウトー! 嘘だー! 絶対、嘘ー!
反射的に言いそうになった自分の口を、間髪入れずに押さえれた私を褒めてー!
昨日の執務室には、そこそこの書類の山が築かれていた。それが二時間ちょっとで片付くはずが――ナイッ! あり得ない!
口を覆ってた手を離し「……そーゆーことにしとく。それで? ぼくになにか、よー?」と訊ねれば「特に用は無いが」という返答。
とくにない、だと……? 何しにきた……。
机に近づいてきた辺境伯がスケッチブックの中を覗く。
「絵、描いてたのか?」
「そー。ごはんまで、じかんあるからねー」
足をパタパタさせながら答える。
午前のお勉強は終わったからね。おやつの時間の後は、自由時間なのだ。
実質、一時間しか勉強していない。五歳児だから、こんなもん?
続きを描く。尻尾はフサフサ~。
「……犬、か?」
「おんまさん!」
「おんま……? ……馬?」
「くび、ながい! あし、ながい! いぬ、そこまでくびもあしも、ながくない!!」
「たてがみ、あるでしょ!」と、絵の首の辺りをクレヨン(もどき)でトントンする。
「たてがみ……鬣?」
「たてがみだよ?!」
辺境伯が考えるように首を傾げる。
何で分かんないの!? と、改めて自分の描いた絵を見る。
……。…………。……? あれ?
「う、ま?」
首、長い。耳、長い。顔も長い。脚も尻尾も長い……。馬要素はある。あるんだけど……馬っぽくない。あれ?
描いてる時は「馬!」って思って描けてたんだけど……。平面的? 子供の描く絵っぽい――今の私、子供だな?!
どこをどう見ても、犬ではないのは確かだ。
……今世の私、もしかして――画伯……?
前世では、そこそこ描けただけに衝撃が強い――いや、かなりショック。前世の私(五歳)も、こんな感じだった……?
……前世の私(五歳)の方が上手いのでは……? いや、でも……。
いや、私まだ子供だし! 化ける可能性、まだあるしッ!!
「……」
「おい……?」
「だいじょーぶ! まだ、うまくなれる!」
自分で自分を鼓舞する。
よし! 次からは鉛筆で練習しよう!
◆
「え~? おっきなヘビぃ?? ……あ! 『バジリスク』!」
「正解」
「え? みたことあるの?」
「冒険者ギルドに運ばれるとこは見たな」
「あぁ、アレ……」
五ヵ月ぐらい前の討伐依頼で退治したやつ、かな? ……よく覚えてないけど。
「つぎは『く』ぅ? く、くぅ……くぅ?」
グリグリ~、サッサッサッ。
辺境伯と『お絵かきしりとり』をしていた。
辺境伯が仕事は終わったと言い張るし、執務室に戻らないので。
辺境伯が思いの外、絵が上手かった件。
文武両道? ――文とはちょっと違うか。
くりっ、グリグリ。くりっ、グリグリ~。
「…………なんだ? これ」
「『クジャク』!」
派手な羽がワサワサしてるでしょ!
「孔雀ぅ? ……あぁ、これ、羽か……。目玉の多い化物かと思った」
「バケモノぉ?!」
「『く』……くぅ……」
「ひどい……バケモノよばわりした……」
「酷いのはお前の描く絵だな」
「ひどい…………えーっと、これは……『くり』ぃ?」
「正解」
「くり……『り』ぃ? り、り……」
「何をしているのですか、旦那様?」
スケッチブックに向かい、『り』のつく物を考えていると、辺境伯に問いただす声がした。
見ると、いつの間にか扉の前に老執事がいた。
「あ、セバス、おかえり~」と声をかけると「ただいま戻りました、坊ちゃま」と胸に手を当て、恭しく礼をする老執事。
「昼食の準備が調いましたが――何をしておいでですか? 坊ちゃん?」
坊ちゃんこと辺境伯は、老執事と目を会わせない。疚しいことがあるんだね?
「……しごとおわった、ゆーから、パパとおえかきしりとり、してた」
「……お絵かきしりとり、ですか?」
「えーかいて、かいたものの、さいごのもじを、つぎのやつの、あたまにするの」
言いながらリンゴを描く。
……木、キバ、バジリスク、クジャク、くり、リンゴと描いた物を老執事に見せると「なるほど~」と描いてある物を見て納得してくれたようだ。
この間、辺境伯は老執事とは反対の方を見ていた。おい……!
「……そこそこの書類の山が築かれていたはずですが……。それが二時間ちょっとで片付くとは到底、思えないのですが……?」
あ、私と同じこと思ってる。ですよね~。
◆
昼食の後、辺境伯は大人しく執務室へ向かった。
昼食前の子供部屋で、老執事のあとに私が言った「きょう、やったほうがいいこと、あしたにまわしたら、あしたやること、あしたにできなくなるのにね? ――エンドレスで、おわらないよ?」に何か思ったようだ。
まあ、ハニーさんと、もう一人の側近の黒髪の人に連行されて向かった、といった方が合ってるかもしれないけど。
……やっぱ仕事、終わってないじゃん! サボりじゃん!
午後は鉛筆で絵の練習だ。
鉛筆を持つ手に力が入っていたからか、芯が折れた。芯が、折れた……。
ち、力加減が難しい……。
◆
お風呂に入り、さっぱり。
いつもならお風呂上がりは、迎えに来た辺境伯と一緒に食堂へ向かうんだけど、その迎えがなくて。
どうしたのかな? と思いながら老執事と護衛さんと食堂へ向かうが、辺境伯は居ないし、現れなかった。
頭の中は「???」とハテナがいっぱいだ。
そんな私に軽食を取りにきていたハニーさんが教えてくれた。どうやら、まだ仕事をしているらしい。
やっぱ午前中、サボってたんじゃん!
でも、まだ仕事してるって――どんだけ残ってるの? ……無茶してない??
夕食の後、ホットミルクを飲んでまったりとしていたが辺境伯は現れず。
寝室に移動して寝る準備をする。
ワンピースのようなヒラヒラの白いパジャマに着替えて一人になると、毛足の長い絨毯に座り、毎晩やっている寝る前のルーティン――ストレッチを始める。
開脚して、ゆっくり静かに筋肉を伸ばす。息は止めずに吐きながら……。
右、左、前とやって、最後は上に腕を伸ばしてく、ぐぐっと伸びー。
「はぁ」と息を吐く――のと同時に、部屋の戸が開いた。
ちょっと驚いて、肩がビクッと跳ねたのはナイショ。
リラックスしてたんだもん。気が抜けてたんだから、しょうがない。
「パパ……おつかれ?」
振り向くと、なんだか凄く疲れた顔をした辺境伯がいた。数時間前とは別人のような風貌である。
……数時間で目の下にクマって出来るものなの?
無言で近づいてきた辺境伯が、床に座る私に抱きつく。
「……パパ?」
「……つかれた」
でしょうね! ――どんだけ有ったかは知らないけど。
ぽんぽんと背中――には手が届かないから、脇腹辺りをぽんぽんしておく。お疲れ様~。
「……」
「……」
「……パパ、ねた?」
「……つかれた」
うん、起きてて良かった。寝てたら(私が)潰れる未来しかないもんね。
しかし、疲れたしか言わなくなった。どうしたものか……。
「ふわぁ、ふ……」と欠伸が出た。むむ、そろそろお眠の時間か……。
すると、辺境伯が立ち上がりながら私を持ち上げ、抱えると、ベッドに向かう。
「パパ、きがえとおふろ……」
「明日。寝る」
う~ん、この……!
会話が成り立っているのか、いないのか……。
私をそっとベッドに置くと、辺境伯は隣にボフンと倒れ込んだ。
……だ、大丈夫だろうか?
……息はしてるから大丈夫、かな……?
辺境伯の靴と靴下を脱がせ、ベルト――取ってあげたかったけど、ムリだな。うつ伏せだもん、動かせないもん。
足……宙に浮いたままだな……。
下敷きになってる掛布団を引っ張り出して辺境伯に掛ける。
ふい~、一仕事終えたぜ……!
私も布団に潜る。ふわぁ……。おやすみなさーい。
◆
朝、起きた時、『姿を変える腕輪』を使えば、全て解決したのでは?! と気づいた。
眠くて、頭が回ってなかったようだ。うぐぐ……。
な ん と か (予定に) ま に あ っ た …… !
約一週間で書いた低クオリティですorz
……低クオリティは、いつもでした……(; ̄ー ̄A
毎日投稿できる人とか、一日で三千字書ける人とか、スゴいなぁ……と思います。
私なんて約一週間で約四千字ですからね……。尊敬しちゃいます。




