12.『蒼焔の魔術師』と『魔道具』
お読みいただき、有難うございます。
ブクマと評価、感謝ですm(_ _)m
今回はちょっと長め……
(空白・改行含まない)五千字超えです。
◆修正◆テレポートの漢字表記を変えました。
『転移魔法』→『瞬間移動』
『魔の森』での魔獣討伐を終え、辺境伯邸に戻って数日が経つ。いつもと変わらない日常に戻った。
今日は私に与えられた子供部屋で、机に広げたスケッチブックに、自作クレヨンでお絵描きをしている。
う~ん。もう少し細い方が持ちやすいなぁ……。今度、老執事さんに削ってもらおっと。辺境伯? ……折るからダメだよ。
――描き心地はダイジョブ!
スケッチブックにクレヨン(もどき)をグリグリ、グリグリ……。
「……むらさき、ほしい……」
はっ! 何言ってんだ、私。
確かに紫色は欲しいけど……あれも結構種類あるからなぁ……。
「むらさき、むらさき……ラベンダー……」
そう言えば……庭の一画にハーブがあって、そこにラベンダーもあった。
ラベンダーは安眠効果があるらしいから、乾燥させてポプリにしようかなぁ……。虫除けにもなるしね~。あとで庭師さんにラベンダー貰おっと。
「ラベンダー、ラベンダー……うん? なんでラベンダー?」
……あ、そうだ。紫色が欲しいって思って、紫でラベンダーが浮かんで――思考が飛びすぎ……。
うん、ラベンダー見に行こーっと。
自作クレヨンをお菓子の空き箱に片付けて、スケッチブックをパタリと綴じる。机の上に置いたら重ねるようにお菓子の空き箱も置いて、お片付け完了~。
クレヨンで汚れた手は【浄化】でキレイキレイ。
椅子から降りようと向きを変えた時、コンコンとドアを叩く音がした。
椅子から降りて、「は~い」と返事をしながらドアに向かって行く。開けると、そこには老執事が居た。
「……坊ちゃま、返事をするだけで大丈夫ですよ? 扉は使用人が開けますので」
「あ、はーい」
困った子を見るような目で見られてしまった。
ついつい、うっかり。やっちまったぜ……。
「坊ちゃま、坊ちゃんが雷帝様をお呼びです」
……『雷帝』をご指名です?
◆
左手首にフィットしている『姿を変える腕輪』に魔力を流して『雷帝』の姿になる。
服を着替え、部屋の外で待ていた老執事と合流し、案内をしてもらう。
向かう先は――――応接室のようだ。
そう言えば――少し前、少し騒がしくなったような……?
『雷帝』に関係のある客なのか?
老執事がコンコンと応接室のドアをノックすると、中から「入れ」という辺境伯の返答があった。
「失礼します――旦那様、雷帝様をお連れしました」
老執事に促され、応接室に入ると、辺境伯が何かを言う前に、辺境伯の向かいのソファーに座っていた客人がこちらを振り返る。
胸元まであるミルクティー色の髪をサイドで緩く三つ編みにした、女性にも見えなくはない中性的な人で、淡い藤色の少し眠そうな垂れ目が驚きに満ちて――
「……蒼焔の?」
「雷帝ちゃんじゃない!」
客は、最上級冒険者の一人、『蒼焔の魔術師』だった。
パッと見、オネェさんだが、立派なお兄さんだ。
バッと立ち上がった『蒼焔の魔術師』がこっちに来て私の両手を掴むと、ブンブン振る。
「やっだ~、元気だった? 最近、見かけないと思ったら、辺境伯領に居たのね~」
「お、おぅ……」
テンション、高ぇ……。
「それより、蒼え「ローズよ、ローズ」…………ローゼン」
「うんもぅ、雷帝ちゃんったら相変わらず堅いんだから~」
「……」
クスクス笑う『蒼焔の魔術師』のテンションについていけず、無言になる。
“ローゼン”と云うのは家名で『蒼焔の魔術師』の名は、レティアス・ローゼンという、火属性魔法が得意な魔術師家系の出(他国の貴族)らしい。
愛称はレティでもいいのでは? と思ったのだが、薔薇が好きなんだそうだ。
自分は愛称で呼ぶよう強要してくるくせに、私のことは『雷帝』呼びである――いや、別にいいんだけど。
「ところで、なんでローゼンが辺境伯領に……?」
「私が作った魔道具に不具合があるって連絡があったのよ~」
……それは……つまり……。
「『魔道具師』でもある、と?」
「そうよ~。ところで――――なんで雷帝ちゃんが姿を変える腕輪を着けてるのかしら……?」
そう言うと『蒼焔の魔術師』は、私の左腕に着けている『姿を変える腕輪』が見えるように私の左手首を掴んで、目線の高さにまで持ち上げる。
「――お前、本当に『雷帝』か……?」
女性っぽい喋り方から一変、口調が男っぽくなると、声も少し低くなり、空気がピリッと張り詰める。
眉間に皺を寄せ、表情が険しいものになると、私の手首を握る手に力を込めたのか、少し痛い。
「……『姿を変える腕輪』で魔力までは変えられないと思ったが?」
「……魔力を変質させる――そう云うアクセサリーはあるけど、それと姿を変える腕輪の併用は無理だわね……」
ふぅ、と息を吐いた『蒼焔の魔術師』が手首を握る手の力を弛め、腕を下ろす。
張り詰めていた空気も少し和らぐ。
「けど――」
「とりあえず、座れ」
続けようとした『蒼焔の魔術師』の言葉を遮るように辺境伯が座るように言う。
『蒼焔の魔術師』に腕を引かれ、ソファーに座ろうとしたら「アレックス、お前はこっちだ」と辺境伯に言われる。
「あらあら」とニヤニヤする『蒼焔の魔術師』が「魔道具の不具合を確かめないといけないのに、離れてたら不便だわ~」と言って、さっきまで自分が座っていたソファーに私を座らせると、その隣に座る。
辺境伯の「チッ」という舌打ちが聞こえた。ご機嫌ナナメのようだ……。
『私が作った魔道具』ってことは『姿を変える腕輪』の制作者が『蒼焔の魔術師』ってことだよな? 魔道具師でもあるって認めたし……。
……『蒼焔の魔術師』が魔道具も作れるって知ってたら――私、もっと早く『姿を変える腕輪』を入手出来てたってことでは?
両手で顔を覆って俯く。
「? 雷帝ちゃん? どうかした?」
「いや……人生って儘ならないな、って……」
灯台もと暗しってやつ?
バジリスク討伐後ぐらいには入手出来たなぁ……。いや、制作に時間がかかるか。
「急にどしたのよ? ……ま、いいわ。
まず、確認なんだけど――今は『姿を変える腕輪』で『雷帝』になってる、ってことで合ってる?」
「……あぁ、そうだな」
「……前は何で姿を変えてたの?」
姿勢を戻し『蒼焔の魔術師』の話を聞いた後、辺境伯に視線をやる――五歳児に戻っても良いのか? と。
頷かれたので、左手首の『姿を変える腕輪』に右手を添え、魔力を流して子供の姿に戻る。
「【へんしんまほー】をつかって、『らいてー』になってた。こっちが、ホントーのすがた」
「~~~~ッ! かっわッ」
隣に座る魔術師さんを見上げて告白すると、魔術師さんが口元を両手で押さえ――なんか、低い声が出た。こわっ。思わず肩がビクッと跳ねる。
「――いや、待って。え? 雷帝ちゃんが偽りの姿で、子供の姿が本来の姿?」
「う、うん……」
両手で顔を覆ってたと思ったら、その手を離した魔術師さんが真顔になった。こわ。
「…………うん、そう……そうなのね……。
とりあえず……ちょっと腕輪、見せてもらえるかしら?」
「……はずせないよ?」
眉間を揉む魔術師さんに言われ、左手首にフィットした腕輪を見せた。
「そうよね~……ちょーっとゴメンなさいね~?」
そう言うと、魔術師さんはソファーから下りる。床に膝をついて、私と目線が合うぐらいの高さになると、私の手を取って、手首にフィットしている腕輪を診始める。
「……魔石に傷はなし。魔法陣と術式にも傷はない、と。……ふむ。
姿を変える腕輪の不具合って、どんな感じかしら?」
「……ふぐあい、ってゆーか……いわかん?
まほーの、はつどーのとき……ラグがあるかんじ」
「ラグ?」
【変身魔法】の時は【ライトニング】! ドーン! ――なんだけど、『姿を変える腕輪』の時は【ライトニング】! ……ドーン! って感じ……。
魔法の発動にズレがあって、気持ちが悪い。
今までは、一撃で魔獣を仕止められたんだけど、今回は少し遅れるからか、一撃で仕止められなくて……。だから、いつも以上に魔力を込めて――バ火力によるゴリ押しだ。
「……魔力判定前の子は魔力が安定しないから魔力コントロールが難しくって、魔力が多い子だと“魔力暴走”を起こしちゃったりするのよね。だから魔力判定前の子には魔法は使わせないのだけど……」
「……コイツ、バンバンぶっ放してるが?」
「……そうなのよねぇ……。バンバン使うのよねぇ……。私も現場、見てるもの……」
質問に答えたら、魔術師さんと辺境伯が、頭が痛い……というような顔で額に手を当てた。……なんか、すみません?
「……ちょっと魔力の流れも診てみるわね~」
気を取り直して、というように魔術師さんが「お手てに魔力流すわよ~」と言って私の手を両手で包むと、淡く光り出した。
お? なんかちょっと温かい感じがする……。これが魔術師さんの魔力かな?
「んー……魔力の流れは正常――うん?」
「? どーかした?」
「雷帝ちゃん、貴方……何か魔法、使ってる?」
「まほー? まほー……あ! かみと、めのいろ、かえてる」
魔術師さんが何か違和感を覚えたようで――魔術師さんに言われて【色変魔法】を使用していることを思い出した。
右手で前髪を摘まむ。
辺境伯家に来てから、ずっと使っていたから忘れてた……。
「それが原因かしら……? ちょっと解除してもらえる?」
そう言われて辺境伯を見ると、眉間の皺が凄かったけど頷かれたから【色変魔法】を解く。
黒髪に灰青色の目から、赤い髪に黄金色の目に戻る。
「――雷、帝……ちゃん……」
どうやら魔術師さんも、隣国の第一王子を知っているようだ。が「あー……なるほど……愛し子……。なるほどなぁ……。確かにぃ……」と天を仰いでブツブツ言い出した。腑に落ちたのだろうか?
「あー……とりあえず、姿を変える腕輪、使ってみて? 違和感、無くなったと思うから」
「ふむ?」
魔術師さんが手を離したから腕輪に魔力を流して『雷帝』の姿になってみる。
「お……? おお? 魔力が廻る――馴染む感じがする……! おぉ! すげー!」
両手をグーパーグーパー、開いて閉じてを繰り返す。
今までの違和感が嘘のように、【変身魔法】で姿を変えた時のような魔力の循環を感じられた。
「…………普通はそういうの気づかないものなのよ……」と『蒼焔の魔術師』が諦めたように言う。
違和感の原因は、『姿を変える腕輪』と【色変魔法】の同時使用によるものだった。
詰まるところ、私の不注意である。
魔道具同士は反発し合うから併用は無理――付与魔法も同じで、併用は出来なくはないらしいが、何が起こるか分からないからなるべくなら同時使用は控えた方がいいらしい。
今回、『蒼焔の魔術師』に言われるまで、【色変魔法】を使っているのを忘れていた。
……慣れ、ってこわい。
「愛し子の加護のおかげで、“少しの違和感”で済んだのよ」と『蒼焔の魔術師』。
見た目は大人(雷帝)でも、中身(本体)は子供だから「魔力暴走の可能性もあったわよ……?」と言われ、ぞわっとした。
加護を与えてくれた神様に感謝――『雷神トール』でやっぱり確定なのだろうか……?
「戦いに関しては、貴方に加護を与えた神様の右に出る者は居ないもの……。だから『魔力判定』前なのに魔力コントロールが抜群だし、無詠唱で魔法が使えるのよ――加護のおかげね~」
……無詠唱なのは、私に詠唱の概念が無かっただけなのだが……。
◆
魔道具の不具合ではなく、私の認識不足によって起きた今回の違和感(魔力が馴染まない、しっくりしない、魔力の廻りが悪い)――遠路はるばる来てくれた魔術師さんに謝りつつ、魔術師さんのおかげで問題が解決したことへ感謝した。来てもらえなかったら、ずっと違和感を抱えたままになっていたと思う。
「レックスちゃん! 次来る時は、何か遊べる物作ってくるわね!」と言った魔術師さんに、辺境伯が「もう来んな」とガルガルしてた。
遊べる物――少ーし興味深いですねぇ……。魔道具だったり……?
来んなって、“『姿を変える腕輪』の制作依頼”と“呼び出し”したの、辺境伯でしょうに……。失礼では?
新しい愛称ができた――一文字減っただけだけど。
辺境伯に敵認定? された魔術師さんは「またねー!」と手を振って、シュン……! と【瞬間移動】で帰っていった――――けど、来る時は何で来たんだ……?
【瞬間移動】は【目印】してない場所には行けないから、辺境伯領には自力で来た、ってことだよね? ……馬車? 馬? まさかの徒歩??
……一応、最上級冒険者だから、辺境伯領に(仕事で)来たことがあるのかも。その時に【目印】した可能性……。
ふぅ……。なんだかちょっと疲れたかも……。気疲れ、かなぁ……。
◆
「またねー!」と言っていた魔術師さんが、お菓子や玩具を持ってわりと直ぐ、ちょくちょく会いに来たり。
辺境伯がベッタリになったりするなんて、この時の私には知るよしもない……。
本編の
「……コイツ、バンバンぶっ放してるが?」
「……そうなのよねぇ……。バンバン使うのよねぇ……。私も現場、見てるもの……」
と言う辺境伯と魔術師さんの会話、実は↓こう話してた(笑)
「……コイツ(五歳児が)、(魔法を)バンバンぶっ放してるが?」
「……そうなのよねぇ……。(雷帝ちゃんが魔法を)バンバン使うのよねぇ……。私も現場、見てるもの……」
想像してる対象が五歳児と雷帝ですれ違い……(笑)




