10.『隣国』と『第一王子』
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少し短め……
「隣国の第一王子が行方不明だとよ」
「ぐふ」
辺境伯の部屋で夕食を終え、食後のお茶をしている時――――隣に座る辺境伯から唐突に爆弾を放り込まれた。
ホットミルクを飲んでいる時に言われたら吹き出しているところだ。……変な声、出たけど。
カップを持っていたから――カップいっぱいにホットミルクが入ってたら溢してた。危ない、危ない。飲んで(減って)て良かった~。
にしても、脈絡なくぶっ込んできたなぁ……。
というか
「……わたしが“りんごくの、だいいちおーじ”って――いつから、しってたの?」
隣に座る辺境伯を見上げる。
いつかは言わなければ、とは思っていたけど……。
それにしたって、私が隣国の王子だって知っている素振りなんて見たことないんだけど……?
「……最初から?」
「さいしょ……?」
「お前に声をかけた時には気づいてた」
……う~ん、それって“鬱蒼とした森の中、魔獣解体中で血濡れてた時”……?
「ほんとーに、さいしょじゃん!」
うわぁ……。いや、まあ……知ってる人が見れば判るカラーリングですけど。赤髪金目なんて。
――他にいるかは知らんけど。
しかも辺境伯は『魔法の影響を受けない魔眼』の持ち主だから、私が【変身魔法】で『雷帝』になっていても魔法を使う前の五歳児な私で見えている訳で……。
黄金色の目なんて希少種ですもんね! ――最近、知ったことですけどッ!
「まあ、王族の誕生は他国だろうと発表されるからな」
「であうまえから、しられてるッ」
知らぬ間に世界に個人情報(髪と目の色と誕生日)が発信されている――王族にプライバシーは無いんか……? 王族の定めか……。
「神の子の誕生は瞬く間に世界を駈ける――――特に隣国の第一王子は、二十三年振りに誕生した神の子で、数百年振りの『雷神トール』の愛し子だ」
二十三年――五歳プラスだから二十八か……。二十八年前って誰だ?
「……それ、かくてーなの?」
「……赤い髪で『魔法属性』が雷なのに違うってか?」
「うぐ」
赤い髪の雷系の神様、他にいなかったかな~?
「魔力判定を終えてないガキが、そう易々とバンバン魔法ぶっ放つなんてこと、出来ねーんだよ、ふっつー」
「…………」
辺境伯からそっと目を逸らした。
……端から見たら規格外だな?
転生チート――いや、愛し子ぱわぁー……。
中身が無くなったカップをテーブルに置き、「おもったより、(居なくなったの)きづかれるの、はやかったなぁ……」と呟いて、ふぅと息を吐く。
普通なら居なくなる前に気づくものだが、私には警備も護衛もついていなかったから、気づくのが遅れるのは当たり前だ。
まあ、普通、王族が居なくなったら直ぐに気づくものだと思うけど――――気に留める価値も無い、ってことなんだろう。
――だけど、居ないことに気づかれるのはもっと後だと思っていた。『魔力判定』が行われる七歳の誕生日――二年ぐらい後かな? って。
「あぁ、第一王子は他国から引っ切り無しに婚約の打診がきてるらしいからな」
「こんやく……? ――あぁ、なるほど。『いとしご』の、おんけーがほしーから……」
「それで王妃がお冠なんだと」
「あー……まぁ……あのくにだと“あいしょーのこ”って、ないがしろにされてたからなぁ……」
辺境伯から聞かされる隣国の話に、驚いたり、納得したり、遠い目になったり……。
王妃様に会ったことがないから、私のことをどう思っていたかは知らないけど、愛妾の子には他国の王族から婚約の打診があるのに、正統な血筋の自分の息子にはないんだから――いい気はしないよね。
「お前や王女達、愛し子に婚約を打診してきてる国の王族や貴族を招待して、交流会と称したお見合いをさせようとしたら――」
「……メインの、だいいちおーじがいないことが、はっかくした、と」
そりゃあ、大慌てだ。私に婚約の打診をしている国の王族を中心に呼びたいだろうから、餌の第一王子が居ないとなると、開催は無理だろうなぁ……。
私が居たら上手く出来たかもしれない。だけど――私は隣国を出た。戻るつもりもない。
王子としての恩恵なんて何も受けていない――――強いて言うなら乳母の存在、だろうか? あの人のおかげで今がある。
乳母のためなら行動してもいいけど、あの国のために動く気は起こらないし、するつもりもない。
「そんで」
「え? まだなにかあるの?」
「横領や職務放棄が発覚して、どんどん人を辞めさせてるってよ」
「あー……」
半年近く前までのことを思い出し、遠い目になる。
職務放棄は……まあ、バレるよね。いや、今までよくバレなかったな? まぁ、バレたんなら、解雇されても文句は言えないよね? 自分の意思で放棄したんだし。
王子費……ちゃんと出てたんだ。有ったんだ……。そうか、着服されてたのか……。あと離宮の維持管理費。
はぁ……とため息が出る。
道理で、母が亡くなってからの二年、色々と不便だったわけだ。
「まぁ、ぼくには、かんけーないかな。いまのぼく、おーじさまじゃないし」
「……それでいいのか?」
なんてことないようにいう私を見て、辺境伯が訊ねる。だから私も、辺境伯の目を真っ直ぐ見て話す。
「……わたしのこと、りんごくにしらせる? ――けいやくしゅーりょー?」
「…………継続だ。知らせない」
そう言うと、辺境伯が私から目を逸らし「まだ次の辺境伯候補も決まってないしな」と続けた。
「うん、わかった。じゃあ――これからもヨロシクね」
「……パパ、だっこ」と辺境伯に向かって両手を広げる。
辺境伯が一瞬、驚いたような顔をしたが「……珍し」と言って、目を擦る私を抱き上げ、ベッドへ向かう。
ちょっと、思考の容量がオーバーしたかなぁ……。お眠になってきた。食後ってのもあるかな……。
もう。ホント、お子様、すぐ眠くなるんだから……。
今日はこのまま――――お口【洗浄】して、キレイにしてから眠ります。おやすみー……




