1.『出会い』と『取引』
一次創作、初投稿です。よろしくお願いします。
※主人公の名前、出てこないよ←
鬱蒼と木々が生い茂る森の中、討伐依頼にあった魔獣を倒し、開けた場所で冒険者ギルド配布の『マジックバッグ』に討伐の証拠になる部位を削ぎ落として入れていた。
これは魔獣や魔物の血で冒険者個人の持ち物を汚さないためのギルドによる配慮だ。
自分の荷物に血濡れの魔獣や魔物の一部を入れるというのは……普通ならやらないし、別の袋を用意すると思う。だが――クレーマーという輩はどこの世界にも存在するらしい。
「汚れた」「臭いがついた」「臭い」だの、そんな難癖をつける輩からギルド職員のメンタルを守るため『マジックバッグ』を配布している。
これにより以前よりクレームが減ったそうだ。
バッグごと提出するとギルドで討伐数も数えてくれて楽でもある。
証拠部位を削ぎ落とされた魔獣を丸ごと【空間収納】に入れていると、後ろから「んだよ……ガキじゃねーか」という声がした。ビクッと肩が跳ねるのと同時に手を止め、振り向く。
私よりも十センチ近く背が高い黒髪の、二十代後半ぐらいの男がいた。腰の剣の柄を握る。
気付かなかった。気付けなかった。
【探知】に引っ掛からないなんて、気配がしなかったなんて――――有り得るのか……?
疑問が頭の中をグルグル回る。
「『雷帝』なんて厳つい通り名してっから、どんな強面の冒険者なんだと思ったら――――ガキじゃん」
「……なに、言ってんだ、あんた。オレは」
「だーかーらー……ガキンチョだろ、お前」
【変身魔法】で姿を変えている。
『冒険者ギルド』の登録は十五歳以上。だが私はまだ五歳児。登録できる年まで十年以上ある。
生活のため、生きるために【変身魔法】で二十歳前後の青年――私が成長したらこうなるのでは? むしろ、こうなりたい! という理想の姿で偽装し、冒険者をしている。
冒険者になって三ヵ月になるが、バレていない。
なのに――見破られた……?
「――――『魔眼』……?」
「おっ、ガキなのに知ってんの?」
ふと思い浮かんだ単語を口にしたようだ。思わず呟いた単語に男が反応した。
男の言葉で眉間に皺がよる。いちいち言わなくても……。
「……『魔眼』にもよるが――あんたの『魔眼』は対象が【変化】や【変身魔法】、『魔道具』を使って姿を変えても使う前の姿で見える、対象の変化後の姿が分からない『魔法の影響を受けない魔眼』、か」
「まあまあ正解」
「……だから私も……?」
◆
ネット小説に溢れかえる異世界転生モノのように、私も生まれた時から前世の記憶を持っている。
国王の子として生まれた時は「勝ち組では?!」と思ったものだが、母は陛下の愛妾だった。
だから普通なら“国王の子である”と認められることも、王族として名を列ねることもなかった。
――私の目が黄金色でなければ。
数百年ぶりに誕生した『王家の色』といわれる“金眼”だったため、私は例外的に第一王子として王族に迎え入れられた。
だが、陛下は髪の色がどちらの色でもない赤だった私を自分の子供だと認めたくなかったのだろう――目の色まで違うのだから余計に。
母に会いに来ても、私に顔を見せることも、声をかけることもなかった。
だからだろう。私が三つの時に母が亡くなると使用人は「愛妾の子だから」「陛下に蔑ろにされているから」と、私の世話を放棄した。というか、離宮に来なくなった。
……私が死んで困るのは仕事を放棄した使用人だろ? ――――私、一応王族ぞ……? 大丈夫か?
王族を故意に死なせたら一族郎党、死罪。だから最低限の仕事はすると思っていたが――陛下自ら放置してるから仕方がない、のか……?
それでも離宮から出なかったのは、母が王宮へ上がる時に男爵家から付いてきた世話役の乳母がいたからだ。
彼女は私に色んなことを教えてくれた。
なのに、母が病に倒れて以来、王宮から誰も来なくなって久しい離宮に役人が急に来て、乳母に出ていくよう通達した。
この時は私も乳母も驚きすぎて口をぽっかり開けたまま、何も言えず役人を見送ることしかできなかった。
おい、幼児が見えてないのか? 乳母が居なくなった後の幼児の処遇は? ――私にどうしろと??
この出来事で私は家――もとい、離宮を出ていく決心がついた。
乳母が離宮を去って直ぐ、私も出る。
放置されている間「使えるに越したことはありませんからね」と乳母が教えてくれた『生活魔法』を基に、前世の記憶を頼りに“生活魔法以外の魔法”――【変身魔法】などを使えるようにした。
魔法は想像力とはよく言ったものだ。
ネット小説様々。ありがとう、前世の記憶!
まあ……幼児に基礎なく『生活魔法』とはいえ、魔法を教えるのはどうなの? 大丈夫……? とは思ったけど。
そうして、【変身魔法】で姿を変えた私は異世界転生あるあるの『冒険者ギルド』に冒険者登録をし、『冒険者カード』をゲット。早々に旅支度を整え、今世の祖国からトンズラをかました。
見つかって連れ戻される訳にはいかないので。飼い殺しはゴメンだ。
――斯くして。冒頭のように異世界転生生活を楽しんでいた、のだが……。
短かったな、三ヵ月……。
魔獣の亡骸を全て亜空間に【収納】すると、戦闘体勢をとる。
対人戦は初めてじゃない。
魔獣討伐以外にも冒険者の仕事がある。
護衛任務もその一つで、主なのは街から街へ移動する商隊の護衛だ。
たまに貴族の護衛なんてのもあったりする。こういう時は、魔獣や魔物よりも盗賊や山賊といった金品を狙う人間の相手をすることが多い。
「ほぉー、空間収納も使えんのか」
「……目的は?」
「そう焦んなよ。
まあ、あれだ。通り名が付くぐらいにはお前――目立ちすぎたんだよ。だから、お前のことが目障りだってやつからの依頼」
「……裏の仕事か」
「まあ、ヤッカミだよなー。顔が良くて、強くて、才能あるからって『痛いめに遭わせろ』なんて。
自分の腕、磨かないで相手を貶める方を選ぶなんて――雑魚だよなぁ?」
男がクツクツ笑う。
隙があるようで、隙の無い男の言動に眉間の皺が深くなる……気がする。
面と向かって文句を言ってくるヤツはいる。
そういうヤツは陰湿陰険なやり方はしない。自分で突っ掛かってくる。蛮勇、または野蛮人――冒険者にはまあまあ多い人種だ。
何が気に食わないのか、ちゃんと言ってくるから嫌いじゃない。それに性格はさっぱりしてる。あと、意外と世話焼きが多い。問題が解決したら後腐れもない。
だが、こうやって他人を使うヤツは面と向かって文句を言うことがない――が、内心気に食わないと思っている。
他力本願で陰険陰湿。面倒な性格をしている。
冒険者なんて実力主義な世界なのに――――なんで冒険者やってんだよ……。
『裏ギルド』――異世界モノで目にしたことはあったが……現実で存在しているとは知りたくなかった。
「けど、まあ――」
「ッ!」
男が姿を消す。
ほんの一瞬だ。瞬きの瞬間に消えたと思ったら、私のすぐ目の前に現れた。
驚き硬直する私の首を男はいとも容易く掴む。息が詰まる。
男の手を離そうと男の手を掴むが、びくともしない。
力の差は歴然だ。
「気が変わった。お前、俺と取引しないか?」
「ぅ……ぐっ…………とり……ひ、き……?」
「俺、実家に戻んなきゃなんねーんだわ。家、継がなきゃなんねーの」
「っ……?」
「けど結婚はしたくない。でも子供は必要――――だから手っ取り早くガキが欲しいわけ」
「…………それ、で……オ、レ……?」
「そっ。それで取引」
言うと、男が顔を近づけてきた。
「お前――なんで冒険者してんの?」
切れ長の、灰青色の目で私の目を見て問いかけてきた。
突然の問いに思考が止まる。
――なんで冒険者をしてるのか……? そんなの
首を絞める手が少し弛められ、酸素が回る。
「――生きる、ため……」
に決まってる。何をするにもお金が必要だ。お金が無ければ、食べ物も飲み物も手に入らない。住む場所も着る物も。
「なら、お前の衣食住を保証する。その代わりに」
「………あんたの、子供の、ふりを、しろ……と」
「そーゆうこと。髪と目の色は変えれるだろ? 変身魔法より簡単そうだ」
「……できる」
「よし! 『雷帝』は居なくなるが、お前は死なない。俺は依頼達成、依頼人はニッコリ。
そんで、お前は衣食住に困んない。俺もガキができて、戦力が増える――イイコト尽くめだ」
「……」
理不尽である。
パッと、首から手を離され、勢いよく息を吸うことになり咳き込む。
荒い呼吸を落ち着かせ、息を整える。掴まれてた首を擦りながら、ため息を吐いた。
……なんなんだ、いったい。
“死なない”、“衣食住に困らない”のは良いことだが、私の気持ちが伴わない。それに頷いてないし、是とも言っていない――なのに契約が成立してる雰囲気だ。
……利害一致じゃない、一方的だ。
自然と項垂れる。
死なない――確かに。この男と殺り合えば死ぬ確率の方が高い。
一瞬で間合いを詰められ、首を掴まれた。一矢は報いたいところだが…………死ぬなぁ……死ぬ未来しか見えないなぁ……。
こんな人間離れした人に遭遇するのは初めてだ。
最上級冒険者もビックリするのでは……?
衣食住の保証――言うぐらいだから生活には困らないぐらいの実家なんだろう。が、“依頼人、ニッコリ”は腹が立つ。報復処置はしたい所存。
あと戦力ってなんだ、戦力って。何処かと戦ってるのか……?
「………………とりあえず、ギルドへの報告と素材は売らせてくれ……」
『雷帝』じゃなくなったら【空間収納】内の魔獣の処理に困る。
いくら時間経過がないとはいえ、嵩張るし、邪魔――
「取引、成立だな」
ガチッと固まる。
項垂れていた顔を恐る恐る上げると、ニヤリと悪い顔をした男がいた。
……取引が成立しちゃった模様……。
どうやら頭に酸素が十分に回っていなかったようだ。
手が離れた瞬間に【身体強化】で即行、男の前から逃げれば――――いや、狙われ続けるのか……ガクッ。
前世の推しに顔も声も似てて――――気でも抜けてたかなぁ……。