表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

6/45

第6話 アミアン=ミュルーズ男爵令嬢視点、婚約破棄劇

「これって……アタイの勝ち、だよねン♡」

王都のど真ん中、まるで宝石箱みたいな白亜の講堂。天井のステンドグラスから差し込む七色の光が、アタイのピンクの巻き髪をきらきら照らしてたン♡


今日は卒業式――アタイの新しい人生の始まりにふさわしい、最高の舞台だって思ったの。


だって、今日こそ“あの人”と結ばれる日なんだもン♡


「カストル様……」って、誰か? フフン、それはもちろん――アタイの運命の人、カストル=アングレーム様ン!


あの大きな体と、ちょっと乱暴な言葉遣い……最初はビックリしたけど、すぐに分かったン♡ この人、アタイのこと本気で見てくれてるって。


だって、あのアンジェ=オルレアンとの婚約があるのに、アタイとコッソリ会ってくれてたンだもン♡


夜の廊下で手を握ってくれた時、「お前といる方がずっと楽しい」って言ってくれた……あの瞬間から、アタイは、もう彼の「本当の婚約者」だったン。


あんなお堅くて気取ったオルレアン嬢なんて、カストル様には似合わないン! アンタが“銀の才女”とか“優等生”とか呼ばれてるのは知ってるけど、恋愛のことになるとサッパリじゃん? ずっと魔道具とにらめっこしてるような女の子に、カストル様の情熱、受け止められるわけないン♡


だから――アタイ、決めたン。今日こそ、全部終わらせるって。


……こっそり、証拠もそろえたの。アンジェさんがアタイのこと悪く言ってたって“手紙”とか、“窓に彫った文字”とか♡ ナンシーちゃんも協力してくれたン。あの子もアンジェさんのこと嫌いみたいだったから、すぐ話が合ったンよ。


準備は完璧。あとは、カストル様が“決定打”を放つだけ――そう思ってた、その時だった。


「アンジェ=オルレアン嬢!」


講堂に響くカストル様の声に、空気が一瞬で凍った気がしたン。


「俺は、おまえとの婚約を――ここで破棄する!」


……きた。やったン! ついに来たンよ、アタイたちの「はじまり」の瞬間♡


会場がざわざわし始める中、アンジェさんの顔がみるみる真っ青になっていくのが、よく見えたン。


「な、何を言って……?」


ふふ、可哀想。でも、しょうがないン。恋って戦争だって誰かが言ってたンよ?


「理由は明白だ!」


カストル様が言って、アタイの方をビシッと指差した。アタイはニコッと笑って、胸元をクイッと寄せるポーズ♡ やっぱ、ここぞって時はビジュが勝負ン。


「アミアン嬢をいじめていたって話だ!」


あーん♡ そのセリフ、もう100回はリピートしたいくらい嬉しかったン!


「アンジェさんって、アタイのこと“乳だけのぶりっこ”って呼んでたン♡ 証拠もあるン。手紙もあるし、窓に彫られた文字も♡」


これにはざわめきも最高潮。アンジェさん、泣きそうな顔してた。ううん、泣いてたン。


「そ、そんな馬鹿な……っ!」


でももう遅いン。アタイの涙ながらの訴えも効いてたし、ナンシーちゃんの証言もバッチリ。あの子も「姉さまなんて、いつも自分のことばっかり」って怒ってたから、きっとこれが正義ン♡


それに――誰も、アンジェさんの味方をしなかった。


ねえ、あんた気づいたン? あんなに優等生で完璧だったのに……最後は、誰も手を差し伸べてくれないなんて。フフン、これが“孤独の罰”ってヤツン♡


でもね――ただひとりだけ、アタイの気になった存在がいたン。


壇の端に立っていた、あの人。


ランス=フリューゲン。金の髪に、澄んだ青い瞳。学院でもっとも注目されてた王子様。アタイも、何度も憧れたンよ? だけど、彼の心は、ずっとアンジェさんにあった。


「……ランス、様……?」


アンジェさんが、かすれた声で名前を呼んだ。なのに、彼は――


見ているだけだった。


声も、動きもない。冷たいって言うよりも、何かに縛られてるみたいだった。


(それでいいン……アタイの邪魔、しないで)


心の中でそう思いながらも、どうしてか、胸がチクリとしたン。あのまなざしの奥に、かすかな迷い――いや、悲しみがあったような気がしたから。


それでも、彼は何も言わなかった。何も、しなかった。


そして、校長先生の判決が下された。


「アンジェ=オルレアン嬢。複数の証言と証拠に基づき、重大な素行不良があったと判断する。よって、今後の爵位継承および家格に関して、王宮に報告がなされる」


その瞬間、アンジェさんの目から光が消えた気がしたン。


でも、それがどうしたの? アタイは勝ったン。カストル様の隣に立つのはアタイ。未来を歩むのはアタイ。……そう、思ってた。


なのに――


「わたくしは――絶対に、負けませんわ」


彼女はそう言って、涙をこらえて立ち上がったン。ボロボロの顔じゃなかった。なんか……すごく、強い目だった。


(な、なによ……ズルいン、そんな目……)


アタイの胸がズキンと痛んだのは、気のせいじゃなかった。アンジェさんは、誰も信じてくれなくても、負けなかった。


講堂を出ていくその背中を、誰も追いかけなかった。アタイも、もちろん追いかけなかった。


でも――ランス様だけは、目を逸らさずに、ずっと彼女を見送っていた。


その青い瞳の奥に浮かぶ迷いに、アタイは初めて気づいた。


(……まさか、まだ……)


胸がぎゅっとなった。


アタイは勝ったはずなのに――なぜか、少しも嬉しくなかったン。


だって、あの青い瞳は――


まだ、アンジェ=オルレアンを見つめていたから。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ