表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

1/45

第1話 アンジェ=オルレアン 卒業式に婚約破棄される!

緑の瞳は、見つめるだけだった

王都にそびえる白亜の講堂。七色の光が天井のステンドグラスから差し込み、生徒たちのローブをやさしく照らしていた。


王立魔法学院、卒業式。


「……これで、学院生活も終わりですのね」


アンジェ=オルレアンはそっとつぶやいた。銀色の髪が揺れ、緑の瞳がどこか切なげに瞬く。


この場所で、わたくしはたくさんの想いを抱いた。誇り、努力、そして――恋。


彼、ランス=フリューゲン。金髪に青い瞳、ちょっとキザな王子。だけど、魔法と魔道具にかける情熱だけは本物だった。


わたくしと彼は、常にトップを争っていた。ライバルで、戦友で、そして……本当は、もっと特別な何かになりたかった。


「ランス様……あなたと過ごした日々は、わたくしにとって――」


けれどその言葉は、途中で遮られる。


「アンジェ=オルレアン嬢!」


壇上から響く怒鳴り声。赤髪の男、カストル=アングレーム。彼はアンジェの“婚約者”であったはずの存在。


「俺は、おまえとの婚約を――ここで破棄する!」


講堂がざわめく。


「な、何を言って……?」


「理由は明白だ!」


カストルが腕を振り上げ、指さした先にいたのは、桃色の巻き髪に黄色い瞳の少女。アミアン=ミュルーズ。


彼女はぶりっこ調の笑顔を浮かべ、胸元を押し上げるようにして立っていた。


「アミアン嬢をいじめていたって話だ!」


「そんな……わたくし、していません!」


「アンジェさんって、アタイのこと“乳だけのぶりっこ”って呼んでたン♡ 証拠もあるン。手紙もあるし、窓に彫られた文字も♡」


「そ、そんな馬鹿な……っ!」


足元がふらつく。視線が周囲を彷徨う――けれど、誰も、誰一人として彼女を見ようとしない。


「誰か……わたくしの言葉を信じて……!」


とっさに探したのは、あの人だった。


壇の端、整列した生徒たちの中に、金の髪が風に揺れていた。


ランス=フリューゲン。


彼の青い瞳は、こちらを見ていた。けれど――


動かない。表情も、声も、何も。


ただ、黙って見ていた。


「……ランス、様……?」


まるで、最初からそこにいなかったかのように。彼は目を逸らし、そっと視線を下ろした。


心が、砕けた。


「……誰も、助けてくれないのですね」


その瞬間、校長が口を開いた。


「アンジェ=オルレアン嬢。複数の証言と証拠に基づき、重大な素行不良があったと判断する。よって、今後の爵位継承および家格に関して、王宮に報告がなされる」


「……っ!」


誰かの悪意で仕組まれた罠。なのに、その罠に誰も気づかない。いや――気づいていても、見て見ぬふりをしているのかもしれない。


足が、がくりと崩れそうになった。


「わたくしは……何もしていませんのに……」


声にならない叫び。


ランス様。どうして、見ているだけなの?


わたくしのことを、あんなに熱心に話し合った仲じゃありませんでしたか? 一緒に笑った、あの時間は偽りだったのですか?


なのに――あなたは、何も言わない。


その沈黙が、何よりもわたくしの心を刺した。


「……退場なさい、オルレアン嬢」


護衛の魔法騎士が近づいてくる。アンジェは、最後の力を振り絞って立ち上がった。


「わたくしは――絶対に、負けませんわ」


涙をこらえながら、真っ直ぐ前を向いた。


わたくしは、信じています。いつか、真実は明かされると。


たとえ、今この瞬間、誰一人信じてくれなくても。


講堂を去る背中に、誰も声をかけなかった。


そして、ただひとり――壇上に立つランス=フリューゲンの瞳だけが、最後まで彼女の姿を見送っていた。


その青い瞳に、かすかな迷いの色が浮かんでいたことに、誰も気づかなかった。


――これは、断罪のはじまり。けれど、物語はまだ、終わっていない。









評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ