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外面

「おや勇者様。いらっしゃいませ」


宿に入る。1階は大勢の人で賑わう酒場。カウンターの奥に、宿の主人がいる。彼は勇者たちの姿を見て頭を下げた。


「4人部屋は空いていますか?」


「はい。すぐにご用意できます」


「お願いします。それと、果実水を4人分。代金は俺が支払います」


「承知しました」


エルドレッドが宿の主人とそんなやりとりをする間に、勇者たちは先に席に座っていた。


「エルドレッド。宿代まで払わなくてもいいよ。路銀は国王様から頂いているから」


「そうか。分かった」


キアムが机に伏せて、ため息をつく。


(つっか)れた〜。もう1歩も動けねえ。(ねみ)い」


「こらキアム。眠いのなら先に部屋に行っていろ。こんなところで寝るんじゃない」


「まあまあグリズス様。好きにさせてあげれば良いでしょう。今日はキアムも頑張っていたんですから」


「甘やかし過ぎだよ、ラディ」


勇者が苦笑する。女僧侶は、可憐な花を思わせる笑みを浮かべた。


(マジで外面(そとづら)だけは良いな)


エルドレッドは冷めた目をして、勇者と盗賊の間の席に座った。勇者が楽しそうにする。彼はエルドレッドだけに聞こえるように、小さな声で呟いた。


「そんな顔をしなくとも、ここでは何もしないよ。君もそれが分かっているから、ラカシャじゃなくケズルにしたんだろう?」


エルドレッドは真剣な表情になった。


「気づいてたのか」


「僕だけじゃない。他の皆も気づいているよ。君はそういうことをする男だ。だけど責める気はない。君の性格を知っていて引き抜いたんだ、少しくらいは許容するさ。もっとも、君が余計なことをすればするほど……人質には傷がつくけどね」


果実水が運ばれてきて、内緒話が終わる。エルドレッドは水を飲み干して席を立った。


「ちょっと外す」


勇者たちは穏やかに笑っている。その顔を見ないようにしながら、エルドレッドは隠れて魔石を起動した。人質の様子が見られる石を。


(ロドニー! セラフィーナも……)


グロウのメンバーだった僧侶と盗賊。その2人の手に、見覚えのない傷がついている。


(ルーシャには傷はねえ。見えるところには。……コイツが1番の弱点だって知ってるからか)


エルドレッドの愛する人。小柄な魔女。彼女は人質の中でも特別だ。エルドレッドを止めるには、彼女に傷をつけるのが1番いい。そうしなかった理由はただ1つ。


(楽しんでるな、あいつら。大切な人間の命と他人の命を天秤に乗せて、どこまで出来るのか観察している。本当に嫌な奴らだ)


魔石の向こうにいるメンバーたちは、恐怖も困惑も見せていない。表面上は落ち着いている。


(……悪い。後でいくらでも償いはする。だから、もう少しだけ我慢してくれ)


彼らはきっと分かってくれる。エルドレッドはそう考えて、魔石を懐に入れた。そう思わなければ、もう何もできなくなりそうだったから。

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