戴冠
大広間に、人々が集まっている。その中には、ロドニーの姿もあった。広間の中央。冠を持った司祭が、エルドレッドを待っている。彼は優しげな笑みを浮かべて、口を開いた。
「お初にお目にかかります。私はジュリアス・タウラー。王都の教会を代表して、貴方に冠を授ける者です」
ルーシャがエルドレッドの背を押した。彼は無言で、司祭の元に歩み寄る。
「エルドレッド・ハーロウ様。これより貴方様が、この国の新たな国王です。どうか末永く、私達をお導きください」
彼の頭に冠を被せて、司祭が告げる。彼は周囲を見渡した。そこにいるのは、顔見知りの冒険者たち。そして王都に屋敷を持つ、主要な貴族たちだった。
「……前王は間違っていた。だからオレが後を継ぐ」
彼らに向かって、エルドレッドが宣言する。決意と覚悟が籠もった言葉。それを受けて、ドレア伯爵が冷たく笑う。
「貴方に出来ますか? 今の今まで、英雄としての自分から逃げていた貴方に」
彼の挑発を、エルドレッドは受け流す。笑って。
「やると決めたらやる。オレはそういう人間だ。それが嘘だと思うなら、見ていてくれ。オレは期待を裏切らないよ」
ドレア伯爵が表情を歪める。周囲にいた冒険者たちが、訳知り顔でそれを見ていた。エルドレッドは英雄だ。貴族も平民も、等しく彼に助けられてきた。だからこそ、その言葉には重みがある。
「手始めに、帝国との休戦協定を結ぶ。前線に出ている兵を呼び戻せ」
彼は近くにいた騎士に声をかけた。彼は無言で頷いて、駆けていった。
「なあ、またギルドに来てくれよ。お前にしか頼めない仕事があるんだ」
1人の冒険者が、エルドレッドに声をかける。エルドレッドは苦笑を浮かべて、首を横に振った。
「オレは王だぞ。そう簡単に、動けねえよ」
「……そうでしょうか」
ある貴族が、会話に割り込んでくる。その顔に見覚えはない。
「留守の間は、信頼できる者に城を任せれば良いでしょう」
「せっかくの申し出ですが、それは遠慮しておきます」
エルドレッドは平然とした顔で断った。そして内心でため息をつく。
(……やっぱり、侮られてるな)
冠を授けられても、何も変わりはしない。彼は、貴族社会に突然現れた異分子だ。少なくとも今は、そのように扱われている。彼自身も分かっている。自分は王宮のことを知らない。貴族社会の仕組みにも、詳しいわけではない。だから貴族たちの対応にも、不満はなかった。
(だけど、オレはこいつらの言いなりになる気はない。絶対に)
ただ、心の中で。静かに決意を固めて、彼はその場に居続けた。




