護送
エルドレッドは馬車を借りて帝国に向かった。御者席にはエルドレッドが、座席には国王とマリオンが向かい合わせになって座っている。国王は暗い表情で黙っていて、マリオンは真顔で口を閉じていた。静かな車内を気にしながら、エルドレッドは馬を走らせる。しばらくして、馬車は帝国の首都についた。エルドレッドは馬車を帝都の端に止めて、御者席から降りた。そのまま人目につかないように、国王を連れ出す。拘束された国王は、抵抗する様子も見せずについてきた。マリオンはエルドレッドと共に国王を隠すように立って、そのまま城まで歩いていった。城の裏門を守る門番に、エルドレッドが金貨の詰まった袋を渡す。門番はエルドレッドの顔を見て目を見開いたが、何も言わずに彼らを城内に招き入れた。国王がため息をつく。
「これだから、帝国は嫌いなのだ。兄上は何故、こんなことを許しているのか……」
エルドレッドが苦笑を浮かべる。
「……ここの奴らは基本的に、自分のことしか考えない。皇帝がどんなに優秀でも、それは変えられないんだろ。あの男が皇帝になった経緯も、少し特殊なものだしな」
国王が複雑な顔をして黙る。エルドレッドはそれ以上の追求はせずに、城の中を進んでいった。迷いのない彼を見て、マリオンが目を細める。
「エルドレッドは、ここに来たことがあるのか?」
「ああ。皇帝が普段いる場所も分かってる。執務室だ。……人に会わないように、遠回りする必要があるから……。到着まで、少し時間はかかるけど」
エルドレッドは宣言通り、入り組んだ道を選んで歩いた。その途中で、国王は唐突に気づく。皇帝が建てたその城は、王城と全く同じ作りだった。
「……エルドレッド。この城は……」
執務室の前に立った彼に、国王が声をかける。彼は笑みを深めて、執務室の扉に手をかけた。
「その話は、皇帝と会ってからにしよう。今のオレが何を言っても、推測にしかならないだろ?」
執務室の扉が開く。部屋の奥で椅子に座っていた皇帝が、扉の方に視線を向けた。
「……何用だ、エルドレッド」
「兄弟喧嘩を、これ以上続けられても困るからな。話し合うにしても殴り合うにしても、本人に直接やってもらおうと思って連れてきた」
エルドレッドはそう言って、後ろにいた国王の背を押した。その顔を見た皇帝が、渋い表情でため息をつく。
「それは不要な気遣いだ。さっさとその男を連れて帰れ」
彼はそれだけ告げると、興味を無くした様子で仕事に戻った。




