逃亡
国王は、やっとの思いで玉座の間にたどり着いた。玉座の裏に移動して、絨毯を裏返す。その下にある隠し扉を開けて、地下に通じるハシゴに足をかけて。彼は下に降りていった。その抜け道は、緊急時にのみ使われるものだ。1度も使われたことがなく、どこに繋がっているのかは知らない。そんな地下の道を、彼は必死に進んでいった。彼の目は前だけを見ていて、足元には向いていない。だから彼は気づかなかった。道の片隅に、白いネズミがいたことに。地下空間は彼らの領域。人が隠したつもりでいても、彼らには把握されている。国王はそのことを知らなかった。長い地下道の終わりが見えてくる。彼は安堵の息を吐いて、外に繋がる階段を上りきった。彼がたどり着いた場所は、王都の端にある広い平野だった。青い空。風にそよぐ草。そして彼の周囲を囲む、複数の人間たち。その光景を目にした国王は、驚きと困惑で足を止めた。彼の目の前に、セラフィーナが姿を見せる。
「王様はきっと、そうすると思ってたよ」
彼女は真顔で言った。国王はその目を見返して、口を開いた。
「……何故ここが分かった? いや、何故エルドレッドに協力する? 元からの仲間はともかく、他の冒険者たちまでどうして……」
「そりゃあ、これ以上戦争が続いたら困るからだ。俺たちへの依頼が減って、食っていけなくなってきてる。こんな状況は見過ごせねえ」
1人の戦士の発言に、他の冒険者たちが頷く。セラフィーナが低い声で告げた。
「王様は間違えていたんだよ。最初からね」
国王の背後。地下の抜け道から、白いネズミが顔を出す。ネズミは無言で駆けていった。ネズミに案内されたエルドレッドたちが、ゆっくりと国王に歩み寄る。その足音を聞いた彼は、諦めた様子で呟いた。
「ここまでか。お前の勝ちだ、エルドレッド」
「……別にオレは、あんたに勝ちたくてこうしたわけじゃねえけどな」
エルドレッドがため息をつく。彼は国王を拘束して、マリオンに向かって話しかけた。
「じゃあオレは、このまま帝国に向かうよ。皇帝とも、話をつけなきゃならないし」
皇帝の名を聞いた国王が、複雑な表情になって目を伏せる。セラフィーナはそれを見て、心配そうな顔をした。
「それ、誰か一緒に行く人はいるの? 今は一応、戦争中なんだよ。エルがいくら強くても、護衛は必要だと思うけど」
「私が彼の護衛をする。任せてくれ」
エルドレッドが何かを言う前に、マリオンが胸を張って宣言した。エルドレッドはそれを聞いて、苦笑を浮かべて口を閉じた。




