離反(後編)
バーニーはマリオンの言葉を信じて、方位磁石を頼りに進んだ。しばらくして、彼は嵐の壁を抜けた。照りつける太陽の光に目を細めて、足を止めて振り返る。渦巻く風と雨を見つめて、彼は不安そうに呟いた。
「コートネイ将軍は無事だろうか」
「心配は要らない。この作戦は、マリオンさんと相談して立てたものだ」
彼の背後から、エルドレッドが声をかける。彼は目を見開いて、エルドレッドの方を見た。
「……その顔と声。まさか、エルドレッドか?」
「そうだよ。……マリオンさんだけじゃなくて、部下の人たちにも知られてたのか。それなら話が早いな。とりあえず顔と体を拭いて、この先にある古い砦に向かってくれ」
エルドレッドは真新しい布を取り出して、バーニーに手渡した。彼は布を受け取って、横目で嵐の壁を見た。
「助かる。……俺は出来れば、ここでコートネイ将軍を待ちたいのだが……」
「それは止めておいてくれ。一応、この平野の大部分を覆えるくらいの大きさの嵐を呼んでいるけど……。それでも限界はある。今、貴方がやったように。前に進み続ければ、嵐の壁を抜けられるんだ。皇国や帝国の兵たちが、迷った末にこちら側に来るかもしれないからな」
エルドレッドは真顔になって告げた。その言葉を聞いて、彼が頷く。
「そうか。分かった。……コートネイ将軍のことを頼む」
水を吸って濡れた布を持って、彼はエルドレッドに頭を下げた。少し先の方に目をやれば、崩れた砦の跡が見える。彼は早足で、そちらに向かって歩いていった。廃墟の前に、セラフィーナが立っている。彼女は彼の顔を見て、笑みを浮かべて口を開いた。
「お、来たね〜? はい中入って。新しい服を用意してるから、着替えておいてね」
瓦礫の裏側に、木の板を組み合わせて作られた机がある。その机の上に、木綿の服が何着も重ねられていた。バーニーは無言で頭を下げて、瓦礫の奥に身を隠した。セラフィーナが元いた場所に戻る。それを確認して、彼は素早く服を着替えた。
「終わったかな? 終わったね?」
「こっちに来て。少し狭いけど、抜け道があるんだ」
白いネズミたちが、彼の足元にまとわりつく。彼はネズミたちを見つめて口を開いた。
「お前たちが作ったのか? 人が通れるような大きさの道だといいのだが」
「大丈夫だよ」
「エルドレッドのために掘った道だから、ちゃんと人間用になってるもん」
ネズミたちが言い返す。彼はその言葉を聞いて、納得したような様子を見せた。
「そうか。余計なことを聞いてしまったな」
「平気だよ」
「気にしてないよ」
白いネズミがバーニーを招く。彼らはそのまま、ネズミの道へと入っていった。




