戦争(後編)
静かな霊山に、ネズミの声が響く。
「アラベラ! 大変だよ、エルドレッドが殺されちゃう!」
アラベラは、その言葉を聞いて目を伏せた。ルーシャが血相を変える。
「エルが……?! どういうことなの、セラ。エルはどこにいるの?」
セラフィーナが暗い顔をする。
「……エルは、帝国にいる。…………ルーには、会わないって言ってた。今のエルは、前のエルとは違うから」
「でも、エルはエルでしょ? 私、会いたい。……助けたいの。今度こそ」
ルーシャは彼女の目を見て告げた。彼女が俯く。
「……エルが苦労するような相手に、アタシたちが勝てるわけない。危険だよ。助けるどころか、迷惑をかけることになる。……それは、良くないことでしょ」
「どうして勝つ必要があるの? エルを連れて、ここに逃げてくればいいだけでしょ?」
「本人がそれを望んでないんだ。エルは自分の意志で、帝国にいる。戦うことを選んだから」
ルーシャが首を傾げる。
「エルが? ……そんなの嘘よ。私と一緒で、あいつも人が殺されることを嫌がってる。だから剣を取ったのに、そのあいつが……本気で帝国に協力して、世界を手に入れようとするなんて。ありえないわ」
「悪魔の力を借りていても?」
ロドニーが低い声を出す。ルーシャは彼の方を見た。杖を抱えた青年と目が合う。何を考えているのか分からない、表情のない顔。ルーシャはそれを見て、ため息をついた。
「あいつがそう言ったの? それなら尚更助けに行かなきゃ。……知ってるでしょ。あいつは全然素直じゃないの。側にいて欲しいときほど、遠ざけるようなことをするんだから。相手が悪魔なら、あいつの顔を使って居座るに決まってる。悪魔は自分の身を危険に晒してまで、世界を手に入れようとしないわよ。人間の国がどうなろうと、彼らには何の関係もないんだから」
アラベラが目を見開いた。
「……それはそうだが、驚かないのか? エルが悪魔の力を使っているというのに……」
ルーシャは目を細めた。
「はい。……エルはそうしなきゃならないほど、追い詰められてたんだと思います。……私のせいで」
「それは違うよ」
セラフィーナが口を挟む。彼女はどこか、吹っ切れたような顔をしていた。
「エルとルーは、誰よりもお互いのことが分かってる。それを利用されただけなんだから、気にしなくていい。……迎えに行こう。エルはきっと、来てほしいと思ってる」
「…………そうですね。僕も少し、考え過ぎて……足が止まってしまっていました。ネズミさん。エルドレッドがいる町まで、道を繋げていただけますか?」
ロドニーが表情を和らげて、ネズミに声をかけた。ネズミは頷いて、駆けていく。アラベラはそんな光景を見て、安堵の表情を浮かべた。




