戦争(中編)
戦争において、数は力だ。どれだけエルドレッドが強くとも、それは変わらない事実である。
「クセルの町に、第1から第5までの隊を向かわせる。できれば殺してほしいが、無理はするな。足止めだけでも価値がある。その間に我が国は神聖国と協力して、北の方角から帝国を攻める」
皇国の王は、戻ってきた兵たちの報告を聞いた。少し考え事をした後に、彼は兵士たちに新たな命令を出した。単純な物量で、エルドレッドを封じ込めると。
「……人の姿を捨てても、心までは捨てられないか。それがお前の弱さなのだな。……私が言えたことではないが」
王が呟く。部屋の隅で、白い影が動いた。
(大変だ。アラベラたちに、伝えないと)
1匹のネズミが駆けていく。部屋の隅、ネズミの道の入口へ。彼は幸運にも、人に見つかることはなかった。全力で走って、霊山に向かう。彼の姿が見えなくなるのと、皇国の王が司教に連絡を取ったのは同時だった。無論全くの偶然だ。王はネズミに気づいていなかった。自分よりも小さく、弱い生き物。そんな存在には何もできないと、彼は考えているのだから。
『あなたから連絡してきたということは、いよいよ彼が動き出したということですね』
王が遠見の術を使う。半透明の膜が浮き上がって、その表面に司教の顔が映し出された。彼は楽しそうに笑っている。
「協力してくれますか」
「当然です。エルドレッドは死した者。再び殺して、今度こそ。その身を大地に還さなければ」
彼はそう言って、背後に控えた僧侶に視線を向けた。
「ラディ。あなたにも、手伝って頂きますよ」
「……はい、司教様」
僧侶が頷く。彼女は浮かない顔をしていた。皇国の王は、彼女の顔に見覚えがあった。
「司教様の部下は優秀ですね。我が国の勇者は、彼の剣に勝てなかったというだけで……自分の家に引き籠もって、私がなんと言おうと出てこなくなったというのに」
「我らは皆、神を信じる同志ですから。神の教えに逆らい、この世の摂理を裏切る者。それは全て敵なのです」
司教は胸を張って断言した。王はそれで納得する。
「心強いことです。今のエルドレッドには、浄化の術は効かなかったと聞いていますが……神聖国で日々修行を続けている方々なら、あの悪魔を倒せる術を見つけられるかもしれませんね」
「その事でしたらご心配なく。ラディが知っているそうです。……そうですね?」
司教に問われて、ラディが頷く。王は安堵の表情を浮かべた。
「そうでしたか。それなら、ラディさん。エルドレッドの討伐を任せる部隊の中に、あなたを入れて出立しましょう。……どうかよろしく、お願いします」
密約が交わされる。ラディはそれを見て、決意の表情を浮かべていた。




