悪魔(後編)
「……そちらはどうなっている?」
「ルーシャが目を覚ましたよ。ロドニーとセラフィーナは、疲労回復のために休ませている。……ルーシャはまだ、状況がよく分かっていない。何も話していないからな。エルドレッドのことも聞かれたが、オレからは何も言えないと伝えた。2人が回復するのを待って、彼らから聞いてくれと。……彼女は不思議そうにしていたよ。無理もないな。それでもオレを信じてくれた。優しい子だ」
アラベラが優しい目をして言った。マリオンはその事で、少しだけ気が楽になった。
「そうか。私たちは今、クセルの町にいる。彼が前線に出たいと、皇帝に進言したからだ。……私は彼と、それほど親しかったわけではない。今の彼は、私が知るエルドレッドのままだ。少なくとも、私の目からはそう見える」
汚れたベッドで眠る男。その背を見て、マリオンは告げた。アラベラが真剣な顔をする。
「クセルの町か。帝国はもう、そこまで侵攻しているんだな」
「ああ。帝国軍が通った場所は、見る影もないほど荒らされている。彼らは元々犯罪者だ。自分たちの欲のためなら、どんなことでもする者たち。……皇国から逃げてきた身で、こんな事は言いたくないが。エルドレッドが彼らの味方をするのは、間違っていると私は思う」
アラベラはその言葉を聞いて、低い声で告げた。
「人と人が争い合うことが、そもそも間違っているんだ。共通の敵が居なくなったというだけで、すぐに戦争を始めることが。それでも、始まってしまったものは仕方がない。せめて、被害が少ないうちに。終わらせなければならないんだ。……オレはエルドレッドを否定しない。話し合いでは終わらせられないと考えたから、あいつは剣を取ったんだ」
マリオンはアラベラを見つめた。獣人の表情は読みづらい。彼女が何を考えて、どんな思いでそこに居るのか。マリオンには、汲み取ることが出来なかった。
「……そうか。分かった。……また連絡する」
マリオンの言葉を聞いたアラベラが、無言で頷く。それを確認して、マリオンは通信を切った。
(……彼は、本当に眠っているのだろうか。……などと、考えても仕方がないな。戦場では、休める時に休まなければならない。いざという時に動けなくなってしまっては、本末転倒だ)
エルドレッドを見張ることも重要だが、マリオンはただの人間だ。長期間の睡眠不足は、最終的に自分の首を絞めることになる。そう考えて、彼女は水晶玉を荷物にしまった。そして彼の横にある、もう1つのベッドに入って目を閉じた。




