決別の時(後編)
一睡もせずに、朝を迎える。セラフィーナとロドニーは、今にも眠ってしまいそうだ。マリオンも流石に、少し疲れているようだった。黒い男だけが、万全の状態で動いている。彼は寝息を立てなかった。本当に寝ていたのか、それとも。寝ているフリを、していたのか。
(……分かんない。エルのことなのに。今までそんなこと、気にしたことがなかったから。……ルーがいたら、分かるのかな。すぐに……)
セラフィーナは、ここにいないルーシャの事を考えた。黒いエルドレッドは、泣かせたくないから会わないと告げた。それは本当のことだろうか。ルーシャは誰よりも、エルドレッドのことを見てきた。黒い男が偽物なら、きっと彼女は見破るだろう。本当は、それが怖いだけなのではないか。そんな思いを、セラフィーナは首を振って追い払った。ネズミたちが迎えに来る。黒い男が立ち上がる。来た時と同じように、彼はマリオンを連れて去っていく。
「……せめて、見送りだけはしましょうか」
ロドニーはそう言って、セラフィーナの肩を抱いた。俯いていた彼女が、前を向く。4人は来た時と同じように、ネズミに麓まで連れて行かれた。黒い男が山を下りる。マリオンが無言で付いていく。2人の背が見えなくなるまで、セラフィーナとロドニーはその場から動かなかった。その姿が完全に視界から消えて、セラフィーナの体がふらつく。ロドニーは慌てて抱き止めた。すうすうと、寝息が聞こえる。
「なんだ。寝てないのか」
木の上から声がする。アラベラの声だ。ロドニーは上を見た。枝を伝って、小さな茶色い影が動く。彼女は地面に下りて、ロドニーの目を見返した。
「まずは休め。話はそれからだ。……と、言いたいところではあるんだが。お前たちには、一応言っておかないとな。司教は神聖国に帰った。あの女僧侶を連れて。……上機嫌だったよ。無理もない。死んだはずのエルドレッドが、悪魔の力で蘇ったんだからな。これで大義名分ができた。エルドレッドに正しい死を。旧時代の再来を許してはならないと言って、あいつは僧侶を説得していた。……全く大した男だよ。これで神聖国は持ち直す。文字通り、最期まで。信仰のために、彼らは命をかけるだろう」
ロドニーは言葉を失った。アラベラが目を細める。
「司教の主張には隙がない。崩すことは出来ない。後はそれを、信じるかどうかだ。オレは信じない。オレたちを下に見ている人間の言葉など、信じるには値しないからだ。だが、神聖国の民たちは……信じるだろうな。司教の言葉だ。証人もいる。もう時間がない。帝国と神聖国の全面戦争は、すぐに始まる。皇国は表向き、神聖国に協力するフリをするだろう。分かりやすい正義だし、皇国の王は皇帝を嫌っている。……あの黒いエルドレッドは、二つの国を相手にして……戦うことを、決めたんだ」
鳥たちが一斉に飛び立つ。何かを予見したように。ロドニーは無言で、アラベラの顔を見つめていた。




