決別の時(中編)
その穴ぐらに着く頃には、日は沈みかけていた。光の差さない穴の中で、4人は輪になって座る。ロドニーが杖を掲げて、その先に魔法の光を灯した。僅かな明かりだが、無いよりはマシだ。その明かりの下で、黒い男はゆっくりと話し始めた。
「オレは自分で死んだんだ。オレが生きていることで、お前らに迷惑をかけちまう。……こんな言い方はしたくねえが、グロウが狙われたのはオレがそこに居たからだ。オレの存在が無くなれば、全て丸く収まると思った」
「……馬鹿。大馬鹿。ルーシャがここに居ないの、何でか分かる? エルが死んだって聞いたからよ。あの子は倒れたの。エルのせいで」
セラフィーナが男を睨む。男は目を伏せて、ため息をついた。
「そうか。悪いことをしたな。それでも、オレは後悔していない。……死んで分かったことがある。ロドニー。創造神は、確かに居た。この世界に。ただ、今は居ない。見捨てたんじゃねえ。託したんだ。人が人の未来を、自分で決められるように。子供が自立できるように。手を離して、去っていった」
「そんな話を、どなたから……?」
ロドニーが低い声を出す。男は苦笑を浮かべた。
「オレと同じ、神の子供と呼ばれた者たち。対魔王用の最終兵器。旧時代に死んでいった……オレの最初の、仲間たちだ」
「伝説に語られる英雄たちか。……ルーシャも、そこにいたのか?」
マリオンが淡々とした声で聞く。男は首を横に振った。
「ルーシャはオレの客ではあったが、共に戦うことは無かった。あいつはその時、ただの村娘でしか無かったから。……オレに剣を教えた人も。アイツに魔法を教えた人も。オレより先に、死んでいった。オレにはその理由が分からなかった。……追い返されて、ようやく知った。オレは最初から、託されていたんだ。神がしたのと同じように、オレに世界を託して逝った。オレはその意志を継ぐ。そうしたいと、思ったんだ」
筋は通っている。セラフィーナが目を伏せる。
「……アンタがエルでも、エルじゃなくても。エルの記憶は、持ってるのね」
「そうですね。咄嗟に考えた作り話にしては、出来が良い。……僕たちでは、判断しきれません」
ロドニーは真顔で言った。男が困ったように頬を搔く。
「そうだよな。こんな話、信じられるわけがない。無理があると、オレも思うよ」
それっきり。誰も言葉を発さないまま、ただ時間だけが過ぎていった。セラフィーナが、次第にウトウトし始める。彼女は必死で、目を開けようとした。ロドニーが彼女に薬草を渡す。
「ハッカ草です。眠気覚ましに」
「……うん。ありがと」
草を噛んで、眠気に抗う。そんな彼らの目の前で、マリオンは男を見据えた。男は座ったまま、岩壁に寄りかかって目を閉じた。




