埋葬(後編)
それは一瞬の出来事だった。エルドレッドの剣が、魔石に向かって飛んでいく。剣の柄の部分が石を吹き飛ばす。エルドレッドの死体。その近くに、魔石が転がる。死体が動く。手を伸ばして、石を掴む。彼はそのまま、自分の胸に石を当てて押し込んだ。魔石が体に埋まっていく。彼の肌の色が、白から黒へと変わっていく。赤い模様が、肌に浮かぶ。固く閉じていた目が開く。その口が動いて、言葉を発した。
「……あー。どこだ、ここ……?」
答えはない。彼の周囲にいる者たちは、驚愕の表情で彼を見ている。彼は苦笑を浮かべた。生きていた頃と、同じ顔で。
「そりゃそうか。……アラベラ。ここは、霊山だよな。オレは、こんな姿になっちまったけど……それでも、まだ。お前の友人でいられるか?」
「…………お前は。本当に、エルドレッドか。生き返ったのか。どうやって?」
「叩き返された。死んだはずの奴らに。……なんて言って、信じられるか? オレも、まだ半信半疑だ。オレは確かに、1度死んだ。自分で自分を殺したんだ。オレの心臓は、もう機能していない。動かない心臓の代わりに魔石を使って、オレは体を動かしている。オレを再び殺したいなら、魔石を壊して悪魔を殺せ」
エルドレッドの体を使っている誰かは、左胸を押さえて告げた。ラディが彼を睨む。
「エルドレッド様は、死んだのでしょう? あなたは、あの方ではありませんわ。あの方のように、振る舞わないでくださいませ」
彼女は恐怖で震えていたが、それでも背筋を伸ばして……杖を掲げて、浄化の術をかけた。彼は、困ったように笑って言った。
「死霊でも、魔物でもない。浄化はオレには聞かねえよ。……どうにもオレは、歓迎されていないようだ。早急に退散するよ」
体を起こして、立ち上がる。彼はゆっくりと、麓に向かって歩いていった。その背を見つめて、セラフィーナが言葉をかける。
「会っていかないの? それで、いいの?」
「ああ。……この姿で会ったら、ルーシャは泣くだろ。あいつを泣かせるのは嫌だ」
誰に会っていくのか。セラフィーナは、あえて言葉にしなかった。それでも彼は、正確に読み取って答えを返した。ロドニーが唇を噛む。姿形は変わっても、言動は全く変わっていない。引き止めたいと、思ってしまう。そこにいるのは、確かに彼だと。そう思ってしまうのだ。
「待ってほしい」
その言葉を発したのは、マリオンだった。彼女は真顔で、エルドレッドを見つめて告げた。
「貴殿がエルドレッドであるかどうかは不明だが、貴殿を殺すには魔石とその中にいる悪魔を一息で貫かなければならない。それだけは、確かなことだ。貴殿には、私の目の届くところにいてもらう。……私は、人の世を守る騎士だ。もう任は解かれているが、それでも。そうありたいと、願っている」
エルドレッドが足を止める。麓に向かいかけていた彼は、引き返してきてマリオンの前に立った。
「分かった。……頼む」
言葉と笑顔。生前の彼と同じように。彼らの前にいる男は、笑っていた。




