彼の剣(後編)
日が沈みきった頃。セラフィーナは泣き腫らした目で、ロドニーを見た。
「……エルを、連れて行こう。霊山に」
彼は無言で頷いた。彼女がエルドレッドの頭を支えて、彼がエルドレッドの足を持ち上げる。その状態で、2人はゆっくりと彼の体を運んでいった。2人を守るように、剣が動く。マリオンはラディの肩を掴んで、自分の方に引き寄せた。固まっていたラディが、戸惑った様子で彼女を見る。
「な、何でしょうか……?」
「そこにいてはいけない。そこは剣の攻撃範囲だ」
ラディが青ざめる。先ほどの光景を思い出して、彼女は恐怖に震えた。マリオンは彼女の体を抱き寄せて、抱え込む。そして、優しい声で話しかけた。
「大丈夫。ここにいれば、攻撃されることはない。……貴殿はエルドレッドと旅をしていた。仮の仲間だったとしても、貴殿を傷つけてしまっては……。エルドレッドは、悲しむだろう」
「……それは」
ラディは目を伏せた。セラフィーナとロドニーが、ネズミの道の入り口で立ち止まる。浮遊する剣は、入り口の横に移動する。そしてそこで待機した。
「色んな話は、霊山に帰ってからにしよう。ここだと落ち着けないし、皇帝の耳にも入るから」
セラフィーナはラディに向かってそう言った。そしてエルドレッドの頭を落とさないように気をつけながら、身を屈めて道に入っていく。黙ったままのロドニーが、それに続いた。マリオンは剣を警戒しながら、少し遅れて付いていく。剣は彼女の背中を守るように動いた。やがて、その剣先も見えなくなる。皇帝の周囲にいる兵隊たちが、詰めていた息を吐き出した。
「バケモンだ」
誰かが呟く。その言葉をきっかけにして、周囲がざわめきだした。
「エルドレッドって奴は何なんだ」
「おい、誰かキアムを呼んでこい。問い詰めてやる。どうせあいつが原因だろ」
「キアムぅ? あいつ、もう死んだんじゃなかったのか?」
「いや、片腕が落ちただけだ。城で療養している」
「へえ、そりゃ幸運なこって。何しろこの惨状だ。命があるだけでも儲けもんだ」
「なあ、皇帝さんよ。霊山には派兵しないでくれよ。あんなのとマトモに戦ったら、命がいくつあっても足りねえ」
皇帝は真顔になった。帝国は、荒くれ者が集まる場所だ。
(それでも。……いや、だからこそか。引き際は、弁えているということだろう)
彼らにとって、何より大切なのは自分の命。自分の欲だ。それを無視してしまっては、皇帝を続けることはできない。故に彼は、笑って告げた。
「当然だ。霊山は人が立ち入れぬ場所。元より攻めるつもりはない」




