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屑と邪悪(中編)

街道から外れた森の中。小さな洞窟の前に、見張りの盗賊が立っている。おそらくそこが、彼らのアジトなのだろう。


「な、何だてめえら!」


見張りが剣を構えて勇者に向かっていく。勇者は相手の武器を自分の剣で受け止めて、弾き飛ばした。彼はそのまま踏み込んで、見張りを袈裟斬りにする。見張りは赤い血を吹き出して倒れた。僧侶が穏やかな笑みを浮かべて、倒れた見張りに手をかざす。白い治癒魔法の光が、見張りを包んで傷を癒やす。


「ありがとう。じゃあ、中にいる奴らを捕まえに行こうか」


勇者が洞窟に入っていく。僧侶と盗賊がそれに続いて、エルドレッドは最後に入った。洞窟は狭く、光も入らない。


(血の匂いがするな)


エルドレッドは光魔法を使って、周囲の様子を確認した。地面に点々と血のシミができている。


「人さらいまでしてたのか」


「みたいだな。オレが見てくるよ」


盗賊が血の跡を追っていく。エルドレッドは少し迷って、勇者に声をかけた。


「俺も行ってくる」


「うんうん、君はそういうと思ったよ。こっちは僕らに任せてくれ」


勇者は笑っている。エルドレッドは真顔で血のシミが続いている方へと歩いていった。不衛生な洞窟内に、血とは違う不快な臭気が(ただよ)っている。


(あの野郎)


エルドレッドは地面に転がっている男の死体を見ないようにして、全速力で駆けていく。洞窟の壁に足音が反響して、牢の中にいた盗賊が動きを止めた。


「ゲッ。なんだよ、もう来たの? 全然楽しめなかったじゃん」


牢の中には裸同然の姿をした女たちがいた。人の形はしているが、その体にはいくつもの傷がある。盗賊は、その内の1人に(おお)い被さっていた。


「お前な……仮にも勇者の仲間だろ。悪人と同じことをしてどうする」


「いいんだって。どうせこいつら、気ィ失ってるし。おんなじことされてたんだから、オレがしたってバレるわきゃない。お前もやったら? 男なんだし、興味はあるっしょ」


「ない。バカなことを言ってないで助けるぞ。彼女たちは被害者だ」


エルドレッドは牢の扉を開けて、盗賊を掴んで引きずり出した。盗賊が舌打ちする。


「ちぇー、残念。久しぶりに何してもいい女が見つかったのにな〜」


「もう黙れお前」


背負っていた荷物の中から布を出して女の体を拭き、自分の服を着せる。見た目だけでも綺麗にして、綺麗な水を飲ませる。それを繰り返して、エルドレッドは人質を全員助け出した。盗賊の姿はとうに無い。


(何もできねえと知ったら興味も無しかよ……。どんだけ屑なんだ、あいつは)


彼は人質を連れて外に出た。人質になっていた女たちは、もう動く気力もないのだろう。全員で固まって、震えている。


「ごめんな。男は怖いと思うけど……もう少しだけ、我慢してくれ」


エルドレッドは彼女たちを先導して、街道に戻った。馬車の近くには衛兵たちがいる。


「すいません。女性の方はいらっしゃいますか? 賊に囚われていた人たちを任せたいのですが……」


「私を呼んだか? いいとも、任せてくれ」


女騎士が馬車から離れて近づいてくる。エルドレッドは彼女に人質を託して、すぐにアジトへと戻っていった。

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