交渉(後編)
沈黙がその場を支配する。聞こえてくるのは、木の葉のざわめきと鳥の声だけ。そんな状態が、しばらく続いた。やがて、アラベラが口を開く。
「お前の思惑はどうでもいい。でも、エルなら。今、起きている問題を……自分の都合で、放り出したりしない。誰かが困っているのなら。本気で、助けを求めてきたのなら。……助けに行く。後のことは、後で考えれば良いだろうって……あいつの、言いそうな事だよ」
彼女の寂しそうな横顔。それを見て、セラフィーナとロドニーは覚悟を決めた。
「……だねぇ。エルらしいや」
「そうですね。どんな理由があったとしても……人に迷惑をかけるのは、良くないことです。僕らで、彼を止めましょう」
司教はそれを見て、心の底から安堵した。アラベラが声を張り上げる。
「おーい! 力自慢を、集めてくれ! すぐに牢を作るんだ。人間用の牢屋を建てる」
茂みが揺れる。熊や鹿、猪たちが姿を見せた。戦闘にいる熊が、彼女を見下ろして口を開く。
「アラベラ。どこに牢を建てるんだい?」
「山の中腹だ。逃げられないように。1人用の牢だから、そんなに大きくなくていい」
「いいとも。任せておくれ。……みんな聞いたね。アラベラの頼みだ。最優先で片付けるよ」
集まった動物たちに向かって、その熊はそう言った。そして彼らは、再び茂みに入っていく。それを見送って、アラベラは司教に声をかけた。
「牢まではオレが案内する。見失わないように付いてこい」
彼は黙って頷いた。アラベラは、彼の傍らにいる女僧侶に視線を向けた。
「その子は誰だ? さっきから何も話さないが、喋れないのか? どうして、ここに連れてきたんだ」
「彼女も関係者です。一応は。……どうしてもエルドレッドに会いたいと、頼み込まれまして。あなた方と話したことを教えていただいたので、そのお返しとしてここまで連れてきました。この先に連れて行くかどうかは、あなた方に任せます」
司教はいつもと同じ、穏やかな笑みを浮かべて告げた。その言葉で、ロドニーたちは察した。その僧侶はラディ・ツェキス。あの地下牢で、出会った人だと。ラディは涙に濡れた瞳で、ロドニーの方に視線を向けた。震える声音で、彼女は懸命に言葉を紡いだ。
「お願い、します。どうか。エルドレッド様の元に、私も共に。何でもします。あなた方にもしものことがあれば、私が身代わりになります。ですから、どうか……」
ロドニーはため息をついて、セラフィーナに問いかけた。
「どうします?」
「……うーん。まあ、この子なら大丈夫なんじゃない? 司教の本性も知ってるし、エルとの面識もある。……でも。会いに行っても、エルは何も喋らないと思うよ。体も動かない。息もしてない。そんなエルを見る覚悟はある? あなたの話が通じなくても、あなたを許す言葉が無くても……それでもいいって思えるのなら、連れていってあげるよ」
ラディが無言で頷く。それで話は決まった。3人は司教の馬車に乗り込んで、帝国を目指して進んでいった。




