戦火
「ルーシャはこのまま寝かせておこう。ネズミに見張らせて、起きたら知らせてもらう。お前たちには山頂に行って、今の大陸の様子を確認するっていう仕事があるからな」
アラベラはそう言って、ロドニーとセラフィーナを連れて外に出た。セラフィーナが周囲を見渡す。
「どっちに行けばいいの?」
草木が生い茂っていて、人の通った跡がない未開拓の山。普通に歩けば、まず確実に迷うだろう。そんな彼女の不安を察して、アラベラは優しい声で告げた。
「お前たちが歩く必要はないさ。……おーい! ちょっとこいつらを、運んでやってくれ!」
木に上った彼女は、空に向かってそう叫んだ。大きな鴉が、彼らの真上に飛んでくる。鴉は静かに、地面に下りた。
「乗っていいって言ってるぞ」
アラベラが2人に声をかける。2人は顔を見合わせた。
「……どうしよう」
「善意で運んでくださるようなので……お言葉に甘えましょう。この山の中では、アラベラさんの姿はすぐに見失ってしまいそうですし」
おっかなびっくりといった様子で、2人が鴉に近づく。鴉は2人が乗りやすいように、背を丸めた。ロドニーがその背に乗って、セラフィーナに手を貸す。彼女は戸惑いながら、その手を取った。2人を乗せた鴉が羽を広げる。周囲に風が渦巻く。鴉は出来るだけ2人を驚かさないように、ゆっくり浮遊した。セラフィーナがロドニーにしがみつく。
「ロ、ロディ……!」
「はい。僕はここに居ます。大丈夫ですよ」
彼女を抱き寄せて、彼はポンポンとその背を叩いた。2人がそんなことをしている間に、鴉は山頂に向かって飛んでいく。速度はそれほど出ていない。風の音を聞いているうちに、下の光景を見る余裕が出てくるような。そんな穏やかな空の旅は、すぐに終わった。山頂に到着したのだ。鴉は静かに、地面に下りる。2人は鴉の体に掴まって、何とか地面に足をつけた。
「ひゃー……。最初は怖かったけど、楽しかったね!」
「そうですね。これも僕たちのことを気遣って飛んでくださった、鴉さんのおかげです」
そんな会話をしながら、2人は山頂に立った。大陸で1番高い山の上。そこからは、地上の様子がよく見える。そこでは、帝国の旗を掲げた軍勢と皇国の旗を掲げた軍勢が戦っていた。国境に近い村や町から、黒い煙が上がっている。何本も。神聖国の旗は、どこにも見えない。そのこともあって、帝国と皇国は互いに全力を出していないようだった。神聖国に攻められても対応できるように、逃げ出した軍勢を追撃することはない。それは確かに戦争だった。人と人の殺し合い。ロドニーが蒼白な顔で押し黙る。セラフィーナは悲しげな顔をして、眼下の戦いを見つめていた。




