霊山(後編)
セラフィーナは気絶したルーシャを担いで、木の幹に空いた大きな穴の中に運び入れた。ロドニーが綿を抱えて中に入る。アラベラはその綿を使って、即席のベッドを作った。セラフィーナはルーシャの体を下ろして、ベッドの上に優しく寝かせた。
「……ルー。大丈夫かな……」
「肉体にはダメージが無い。少し休めば、回復するさ。ここまで、色々な事がありすぎた。もう限界だったんだ。そうだろう?」
アラベラが穏やかな声音で言う。セラフィーナとロドニーは、黙って彼女を見つめた。彼女は真剣な目をしている。
「それに、ルーシャの事も心配だが……1番の心配事は、他にある。言うまでもなく、エルの事だ。ロドニー。僧侶としての見解を、聞かせてほしい。肉体が死んだのに、魂がこの世に留まることはあるか?」
「……有り得ません。人は死んだら終わりです。死者が蘇った話はありますが、それは死体が勝手に動いているだけのこと。死んだ本人が、生き返ってくるなんて……そんな、ことは……」
ロドニーが目を伏せて言いよどむ。アラベラは彼の言葉を肯定した。
「無い。オレも知っている。オレたちも、死ねば終わりだ。大地に還るか、他の生き物の糧になるか。どちらにせよ、死とはそれまでの自分を失うことに他ならない。では、エルが……神の子が、例外である可能性は?」
「ありません。エルドレッドの他にも、神の子だと呼ばれた者はいました。魔族との戦いで、皆が命を落としている。もしも、神の子だけが例外で……死んでもその魂が残り続けるというのなら。彼らにも、同じようなことが起きていなければなりません。ですが、僕たちは……そんな話は、見たことも聞いたこともないのです」
アラベラは目を細めた。そして低い声を出す。
「オレも同じだ。ネズミの言葉を信じないわけじゃないが、前例が無い。エルだけが特別なのか、それとも。これまでとは違う、別の要因があるのか。考えたくはないが、これがオレたちを誘い出すための罠だという可能性も高い。エルの剣が動いているのは幻覚で、ネズミはそれを本物だと思い込んだまま帰ってきた。オレたちを霊山から引きずり出して、纏めて殺すために。敵はわざと、ネズミを見逃したのかもしれない」
セラフィーナは、思わず声を上げた。
「そんな! そんなの、あんまりだよ! それじゃあ……エルは、本当に……!」
ロドニーが唇を噛む。アラベラは悲しそうに、けれどハッキリと告げた。
「エルが生きているという可能性は無い。それだけは。……あいつのことだ。生きていたら、霊山に来ている。絶対に。ネズミが迎えに行ったんだ。少しでも息があれば、仲間を呼んで……引きずってでも、連れて帰ってきただろう。あいつが誰かに捕まっていることもない。そんなことがあれば、ネズミたちが見つけているからだ」
淡々と語られる言葉。ロドニーとセラフィーナは、それを否定しなかった。……出来なかった。
「…………ルーには、生きてるかもしれないって言うから。騙すことになってもいい。そうじゃないと、ルーまで……」
「……ええ、そうですね」
アラベラは2人の言葉に頷いた。今のルーシャに、こんな事は伝えられない。絶対に。それに関しては、全員の意見が一致していた。




