霊山(前編)
大陸の中心にある、天を衝く山。霊山メラウカル厶。そこは花と緑の楽園だった。聖なるサリュの樹が森を形成している、平穏な場所。人が入ることを禁じられた、獣の楽園。ネズミが山中に消えていく。しばらくそこで待っていた3人は、木の上から声をかけられて顔を上げた。そこには1匹のリスがいる。彼女は3人の知り合いだった。
「ルーシャ。久しぶりだな」
「……アラベラ? どうしたの。あなたは霊山の穏やかな生活に飽きて、人里に下りてきたんでしょう?」
「仕方ないだろ。エルに頼まれたんじゃあ、協力しないわけにはいかない。奴がオレに言ったんだ。お前たちを見つけてほしいと。……驚いたよ。人間ってのは、本当にバカばかりだ。お前たちを引き裂いて、エルだけ連れていくなんて。グロウは4人揃ってるから最強なんだ。そうだろう?」
「私たちはランクが低いのよ。エルに比べて。だから昔から、釣り合わないって言われてきたわ。……そんな事より、エルはどこ? あなた達と一緒にいるんじゃないの?」
「……それなんだけどな。あいつを迎えに行ったネズミが、青い顔して戻ってきたんだ。何があったか聞いても、ブルブル震えて答えない。よほど怖い目に遭ったんだろう。今、ネズミたちに大陸中を探らせてる。そいつらが戻ってきたら……」
アラベラの言葉の途中で、ネズミが1匹。彼らの下に、駆けてきた。
「聞いたよ! エルドレッドは死んだんだって! 人間たちが話してた。エルドレッドの剣が勝手に動いて、死体を守っているんだって」
「それは確かか?」
「間違いないよ! エルドレッドを迎えにいったネズミが、見たんだって。使い手もいないのに剣だけが動いてて、エルドレッドは倒れたまま動かなかったって。あれは絶対に死んでる。それなのにまだ戦ってる。きっと魂だけが残ってるんだって、そのネズミが言ってたよ!!」
ルーシャたちは凍りついた。アラベラが真剣な表情で頷く。
「そうか。怖かったのに、知らせてくれてありがとうと。そう伝えておいてくれ。それから皆に、1度山に戻るように言ってくれ。人間たちの町には、出来るだけ近づくな」
「分かった!」
ネズミは元気に返事をして、仲間の所に戻っていった。ルーシャの体がフラリと傾く。セラフィーナは慌てて、彼女を抱き止めた。
「ルー! しっかりして、ルー!!」
ルーシャは答えない。その体には、力が入っていないように見えた。アラベラが木から下りてくる。彼女はしばらくルーシャの顔を見つめていたが、やがて口を開いて告げた。
「大丈夫。意識を失っているだけだ。とりあえず、大木のウロに運び入れよう。オレたちの巣に。……お前たちのために人間用の家を建ててやろうと思っていたが、その前にエルの話をしないとな。これからどうするか、そこで相談するとしよう」
セラフィーナとロドニーは、青い顔で頷いた。




