地下牢(前編)
すすり泣く、女の声。それが止んだのは、ネズミが新しい通路を掘り終わった頃だった。
「……僕はロドニー。ロドニー・フィアロンです。あなたは?」
穏やかな、けれどしっかりとした声で。彼は彼女に話しかけた。セラフィーナとルーシャは、邪魔しないように黙っている。
「ラディ……ラディ・ツェキスです。……僧侶様、ですよね。第102回目の、トースィアの集いでお会いした……」
ロドニーは困ったような顔をした。
「すみません。僕は集いで会った方のことを、あまり覚えていないんです。互いに神を信じる仲間同士、友誼を結ぶのが僧侶の義務ですが。……そこで話されていた方々が真に神を信じているとは、僕にはどうしても思えなくて」
神よりも、司教に対する称賛の言葉の方が多い。トースィアの集いとは、そういう会合だ。けれど、あの場所で出会ったということは……。
「あなたも、僕と同じ……僧侶ですか?」
「はい。高位の僧侶です。……以前はそうでした。もう、位は剥奪されているかもしれませんが」
「それは、何故? どうして、こんな所にいるのですか。……エルドレッドが殺されるというのは、どういうことです?」
「帝国の皇帝と勇者様たちが共謀して、エルドレッド様を殺そうとなさっていたのです。私は司教様に助けを求めたのですが、司教様は何故か私をこのような場所に落としたきり、何も話してくたさらず……。これも呪いの影響なのでしょうか。私には何もできません。ここで泣いていることしか、出来ないのです。苦しいのは、エルドレッド様の方なのに」
ロドニーは、セラフィーナとルーシャの顔を見た。2人とも、戸惑っている。ロドニーにはその気持ちがよく分かった。あまりにも、突拍子もない話だったから。けれど……。
「……勇者と言いましたね。それは、グリズス・メイトキアリアという名の男ですか?」
「はい。確かに勇者様というのは、グリズス様の事ですが……」
その答えを聞いて、ロドニーは渋い顔をした。彼はロドニーたちを捕らえて幽閉した、張本人だ。
「ラディさんは、彼の仲間だったんですか?」
「はい。私とグリズス様、盗賊のキアム様。そしてエルドレッド様も共に、旅をしておりました。エルドレッド様は、私たちに良くしてくださいました。……あの方は、望んでそうしたわけではないとの事でしたが。仲間の方を人質に取られて、無理やり……私、本当に何も知らなくて……」
ラディはまた泣き出した。ロドニーはため息をついた。
「……僕が集いに出たのは、2回だけです。グロウに誘われるよりも前の102回目と、エルドレッドの審問が始まる前の440回目。440回目の集いには、あなたは参加されなかったのでしょう。……僕は人質になっていた僧侶です。ある方に助けていただいて、ここまで逃げてきました。エルドレッドの仲間とは、僕のことです。泣いている女性に対して、礼を欠いているとは思うのですが。……彼のことを、話してください。僕たちが知らない、彼との旅を」




