生と死
宿の2階にある客室で。エルドレッドは懐から、あの魔石を取り出した。仲間たちの様子を見ることができる石。
(これが、多分。……最期だ)
そう思った。状況は、想像していたものとは少しだけ……違っていた。
『ネズミの道! 助かったー!』
『相変わらず、手回しが良いですね。エルドレッドは』
『セラ! ロディ! ……久しぶり!!』
ルーシャがいる部屋の隅に、人が1人通れる程度の穴が開いて。セラフィーナとロドニーが、そこから出てくる。ルーシャは部屋の扉を閉めて、内側に家具を積み上げていた。そんな事をしても、死ぬのが少し遅れるだけだ。それでも、そうしていたおかげで……3人は、揃って逃げ出すことができた。
(…………そこまでしてくれたのか。獣人たちに、感謝しないと)
エルドレッドは心の底から安堵した。階下から、勇者と盗賊。そして皇帝が駆け上がってくる。
(じゃあな、皆。……幸せに、なってくれ)
迷いはなかった。たった今、無くなった。本当は自分の命と引き換えに、仲間たちの解放を頼もうと思っていたけれど。もうその必要もない。
(最初から、こうすべきだったんだ)
エルドレッドが生きている間は、三国とも絶対に諦めない。獣人たちに迷惑をかけて、仲間たちに心配させて……そうしてまで生きる理由はない。魔石を壊して、繋がりを断ち切る。そして、エルドレッドは。自分の剣で、自分自身を貫いた。扉が強引に押し開けられる。勇者たちは部屋の中の惨状を見て、心の底から驚いた。
「うわ、痛そう。ここまでするかね。何だっけ。骨が必要だって?」
盗賊が顔をしかめて、死体に近づく。その腕が切られて飛んだ。剣が、ひとりでに動いている。まるでそこに、幽霊となった彼がいて……。死んだ自分を、守っているような。そんな動きだった。
「……まさか。そんな、馬鹿なこと……」
勇者が剣を抜いて斬りかかる。姿の見えない何者かは、一振りで彼を吹き飛ばした。壁に背中を打ち付けて、彼が血を吐く。
「本気で戦う、エルドレッドか。……懐かしいな。それに面白い現象だ」
皇帝は笑って、座ったまま動かなくなった勇者に近づいた。彼の体を探って、水晶玉を奪う。そして起動させる。皇国の王は、焦り顔で通話に出た。
「兄上。たった今、人質が逃げ出しました。手引きをしたのは獣人です」
「丁度良かった。こちらも、エルドレッドが自殺して……剣が意思を持って、動いているところだ」
皇帝が笑みを深める。皇国の王は、すぐに彼の意図を読んだ。
「分かりました。すぐに、皇国の民たちに知らせましょう。エルドレッドが死んだ。動く剣を止めて、死体を回収した者には……それ相応の謝礼を出すと」
「そうしてくれ。俺も同じことを、帝国の民たちに触れ回る。司教にも知らせておこう。……さて。グロウの仲間たちは、死体であっても救いに来るのか。楽しみだな?」
皇帝はそう言って、ニヤリと笑った。




