【閑話】 織り込み済みの結末へ
「私は反対です」
僧侶は、杖を掲げてそう言った。
「神の子であるエルドレッド様のご友人に、手を出すなどと。そんな事が許されて良いはずはありません」
「僕は出来れば、彼には死んでほしいんだけどね。僕ではとても懐柔できそうにない。……明らかに人選を間違っていたよ、国王様は」
勇者はそう言ってため息をついた。盗賊は無言で皇帝を見た。皇帝は、苦笑を浮かべて告げた。
「従わないなら、殺すしかない。エルドレッドのことだ。逃げも隠れもしないだろう」
僧侶が顔色を変える。彼女は通話のための魔法陣を、床に描いた。通話を繋げた先は、大神殿。相手は当然、司教である。彼は少々不思議そうな顔をして、半透明の膜を通して姿を見せた。
『どうしたんです? ……おや。そこに居るのは』
「久しぶりだな。あの会談以来か?」
司教は皇帝の顔を見て、目を見開いた。皇帝が腰に下げていた剣を抜く。
「状況が変わった」
「そのようですね。見れば分かります。……やはりラディには重荷でしたか。計算違い、ですね」
司教は冷たい目をしていた。僧侶が戸惑う。
「司教様……?」
「手に入らない物は、壊すしかない。そうだろう?」
「ええ。こちらとしては、骨だけ頂ければそれで構いません。彼が真であれ偽であれ、神の子の体という謳い文句が付くだけで価値はある。その骨で墓を立てるか、それとも祭具に加工するか……それは、頂いてから決めるとしましょう」
司教は指を鳴らした。僧侶の足元に穴が開く。彼女は驚愕の表情を浮かべたまま、落ちていった。皇帝が、集まった兵たちに指示を出す。
「エルドレッドは、ああ言っていたが……あいつはそう簡単に、生きることを諦めるような男ではない。何か作戦があるのだろう。宿の周りを固めておけ。ネズミの1匹も、見逃さないように」
盗賊が短剣を持って、勇者を見る。
「ってことで。そっちの王には、伝えねえの?」
「……いや。伝えないといけない」
勇者は、通話の術式が刻まれた水晶玉を取り出した。その向こうには、皇帝によく似た……けれど彼よりも気弱そうな男がいる。
「……兄上? それに、司教様まで。何があったのですか」
「計画が失敗した。予定通り、対象の抹殺に移る。ライズ。そちらで拘束している人質も、殺しておけ。後に禍根を残さぬように」
水晶の向こうにいる男は、悲しそうな顔をして頷いた。
「そうですか。とても、残念です。……ですが仕方がありません」
そう言って、彼は。表情を消して、皇帝を見つめた。
「兄上。私は今度こそ、あなたに勝ちます。あなたと、司教様に」
その言葉は、宣戦布告と同義だった。仮初めの平和を、終わらせる音。新時代の行先を決める戦いは、その瞬間に幕を開けた。




