皇帝
宿に戻ったエルドレッドは、宿の1階で朝食を食べている勇者たちを見つけた。彼らは、金色の鎧を着た男と同席している。
「おはようございます。何をやっているんですか、こんな所で」
「貴様が来ていると聞いて、会いに来てやったんだ。少しは嬉しそうな顔をしろ、エルドレッド」
鎧姿の男……この国を統治している皇帝は、不敵な笑みを浮かべて告げた。勇者が笑う。
「エルドレッドは、皇帝陛下とも仲が良いんだね。流石は英雄だ」
「そんなんじゃねえよ。皇帝陛下は単に、強い人間が好きなだけだ。ですよね?」
「ああ。俺と真正面から戦って、俺を打ち負かす人間。そういうヤツがいるのなら、気を配ってやってもいい。最も……そんな人間は、お前以外に居ないだろうが」
僧侶が顔をしかめる。
「力で人を判断するなんて。やはり皇帝は、野蛮な東の民ですね」
「出身地で人を差別するのは良くないぞ。ユラ様の教えでは、人はみな平等なんだろ?」
エルドレッドはそんな言葉をかけながら、僧侶の隣に座った。僧侶は不満そうにしている。
「ですが……帝国は力のない者が生きていくことの出来ない国です。そんな国に世界を任せてしまえば、旧時代より恐ろしい混沌の世が訪れてしまいますわ」
皇帝が僧侶の言葉を鼻で笑う。
「くだらん。旧時代の混沌と、この国の活気は違う。貴様らが追い出した者たち。どこにも行けなくなった民。この国は、彼らにとって最後の希望。神殿の奥で何不自由なく育った小娘に、どうこう言われる筋合いはない」
エルドレッドはため息をついた。皇帝の言葉は正しい。だが。
「弱者は帝国に住めない。それも事実だ。……どこまで行っても同じだろ。神聖国と帝国は、まるきり主張が違う。どちらかが勝つということは、負けた方が滅ぼされるということだ」
「それなら尚更、皇国に任せるべきだとは思わないかい?」
勇者が話に割り込んでくる。エルドレッドは目を細めた。
「こんな事になる前は、皇国のことを信じていたけどな。今はもう信じられない。先に裏切ったのは、お前たちだ」
「……エルドレッド様は、自分から望まれてここにいらっしゃるのでは? 私、そうお聞きしましたわ」
僧侶が困惑した様子で、口を開く。エルドレッドは低い声で告げた。
「違う。……司教様から何と聞かされたかは知らないが、俺は……好きでこんな所にいるわけじゃない」
僧侶が絶句した。勇者と盗賊が、笑いながらそれを見ている。皇帝が口角を吊り上げた。
「エルドレッド。俺を頼りたくなったら、城に来い。歓迎する」
エルドレッドはその言葉には答えず、朝食を食べることにして店員を呼んだ。




