味方
荷物の位置が変わっている。その事に気づいて、エルドレッドは目を細めた。
(盗賊の仕業だろうな。……そういう性格だってことは知ってたが、それにしても早すぎる)
周囲を見る。他の3人は、まだ起きていない。
(……少し、外に出てくるか。これからどうするか、考えねえと)
宿を抜け出して、人が行き交う大通りを歩く。目的のない散策の途中で。
「よおエル! 久しぶりだな!」
エルドレッドは突然、頭上から声をかけられた。驚きと困惑で、一瞬だけ固まる。その声を、彼はよく知っていた。
「……アラベラ。お前、こんな所で何してるんだ」
上を見上げる。塀の上。そこに居たのは、人の言葉を話す1匹のリス。獣の姿を取っている、獣人だった。
「別に何もしてないよ。オレに命令出来るやつはオレだけ。お前も知ってるだろ?」
「……ああ、そうだったな」
エルドレッドは遠い目をした。アラベラがそれを見て、首を傾げる。
「おいおい、どうしたんだ。……そういえば、ルーシャたちがいないな?」
「…………なあアラベラ。協力してくれないか。理由は聞かなくていい。断ってくれてもいい。……悪魔を1匹、預かっておいてほしい」
エルドレッドは彼女の目を見て、真顔で言った。彼女が目を丸くして、次いで真剣な顔になる。
「どうしたどうした。オレたちのエルが珍しく、本気になって言うなんて。オレのことを知っているのに、そんな頼みをするほどに……お前は、追い詰められているのか?」
彼が無言で頷く。彼女はそれを見て、低い声で告げた。
「――いいよ。お前はオレの友達だ。それに……ルーシャたちに頼まないってことは、頼めない理由があるってことだろ。お前の宝を預かって、守ってやる」
「……すまない。この恩は、いつか必ず返す。待っていてくれ」
エルドレッドは懐から魔石を取り出した。アラベラが塀の上から下りてきて、その石を頬袋に入れる。
「恩なんて感じなくて良いって。……けど、理由は知りたいな。ルーシャに頼めなかった理由」
「……今、ここには居ないんだ。あいつらは」
獣と目が合う。彼女はじっと、エルドレッドを見つめていた。
「それで。お前、それだけでいいのか? 本当に?」
「これ以上のことを頼むわけにはいかないだろ。ただでさえ、アラベラたちは……人間から、迫害されているんだから」
「うんうん、そうだな。オレたちは人間が嫌いだよ。……でも、エルは好きだ。ルーシャたちも。だから言っているんだよ。エル。エルドレッド。……人間を頼れないんなら、オレたちを頼ってくれ」
彼女は本気だ。そして。その言葉は今のエルドレッドにとって、1番欲しかったものだった。
「……そうか。本当に、ありがとう。ここでアラベラに会えて良かった。…………ルーシャたちを、探してほしい。多分、どこかに捕らえられていると思う。それも、1人ずつ。別々の場所に」
「分かった。オレたちに任せろ。必ず見つけてきてやる。だから諦めるなよ、エル」
リスはそう言って、素早く街中を駆けていく。その姿はすぐに見えなくなった。エルドレッドはそんな彼女を見送って、心の底から安堵した。




