帝国の宿
馬車は、帝都で1番大きな宿の前に停まった。宿の1階は酒場になっていて、勇者たちはそこにいた。
「つまんねえの。ちょっとくらいは慌てるかと思ったのに、全然変わらねえんだもんな」
盗賊が酒を飲みながら、気軽に話しかけてくる。勇者が苦笑する。僧侶は何か、真剣に悩んでいる様子だった。
「……エルドレッド様が特に騒ぐこともなく、行動していたのは……きっと、私たちのことを思ってくださったからですわ。……そうですよね、エルドレッド様」
僧侶が思い詰めたような様子で問いかけてくる。エルドレッドはため息をついた。
「人さらいの話から、嘘だったんだろう。騒ぐ理由は何もない」
「あの悪名高い帝国を、お信じになるのですか?!」
僧侶が大声で叫ぶ。彼女は立ち上がって、机を叩いた。エルドレッドは彼女の目を見返した。真っ直ぐに。
「ヤドゥイの町の規模は、そんなに大きくない。仮にあの場所で、帝国が本当に人を拐っていたとして。その目的は何だ? あの町に、高い身代金が出せるような家は無い。あの町に、取り立てて……帝国が今から欲しがるような、能力が高い子供がいるとも思えない。それとも、悪名高いからといって……根拠もないのに、何かやっていると決めつけるのか?」
僧侶が目を見開く。エルドレッドはすかさず追撃した。
「大体、本当にそれが帝国の仕業だったとして。正規兵が関わっているのなら、それは俺たちの手には負えない。司教様に何とかして貰ってくれ。連絡は取れるんだろう」
「……あ。そう、そうでしたわ。…………ありがとうございます」
僧侶は納得した様子になって、席に座り直した。
「申し訳ありません。私、少し考えすぎていましたわ。エルドレッド様が呪いの影響をお受けになって、帝国の考え方を良しとするようになられたのかと思ってしまって……」
「良いか悪いかで言うなら、やり方としては悪いだろ。人の善意を利用した計画を立ててる時点で。俺はただ、逆らっても何も良いことが無いと分かっているだけだ。この計画に賛同した覚えはない」
「そうですね。……ええ、本当に。エルドレッド様がお変わりないようで、何よりです」
僧侶が何度も頷く。そんな彼女に聞こえないように、勇者が小声でエルドレッドに話しかけた。
「相変わらず、追求を躱すのが上手いね」
「……俺は事実しか言ってないからな」
僧侶は隠し事が下手だ。勇者と盗賊も、もうとっくに気づいているのだろう。……おそらく彼女は、司教からの密命を受けた。
(それが呪いの品に関する話なのは、少し考えれば誰にでも分かることだ。司教が求める呪いの品。それが何か分からないうちは、下手に動かねえと信じたいが……)
勇者と盗賊は、僧侶の態度を見て……その品物に、興味を持った。大神殿を出てから、司教の思い通りに事が運んでいるような気がして……エルドレッドは、内心で舌打ちをした。




