勇者パーティー
「色々と世話になったね」
「いえ、元はと言えば俺のせいですから」
波の音と潮の香り。汽笛の音が聞こえる港で、エルドレッドはバイロンが船に乗るのを見送りに来ていた。
「ルーシャちゃんたちは大丈夫なのかい?」
「今のところは無事ですよ。監禁されている場所に魔石が置いてあって、それを使って向こうの様子が確認できるので間違いありません」
「……そうか。それは、一方通行なんだろうね」
「残念ながらそうですね。俺には向こうの様子が見えてますけど、向こうにはこっちのことも見えなくて、話すこともできません」
バイロンが悲しそうな顔をする。エルドレッドは明るく笑って見せた。
「俺のことなら気にしないでください。こう見えても俺、強いんで!」
「……ああ、よく知っているとも。でも、無理はしないでくれよ」
「はい。バイロンさんも、お元気で」
汽笛が鳴る。船がゆっくりと走り出す。エルドレッドはバイロンの姿が見えなくなるまで、ずっと手を振っていた。
「終わったかい?」
勇者が彼に声をかける。彼は手を下ろして振り返った。
「ああ、終わったよ。それで? 俺たちはこれから、どんな仕事をしに行くんだ」
「基本的には旧時代と同じさ。あまり目立ちすぎるのも良くないし。ひとまずは、西の火竜を倒しに行くことになるかな」
「火竜? まだ生きてたのか、あいつら」
「どうかな。本物かどうかは実際に見てみないと分からないけれど、何かがあるのは確かなようだ」
勇者が踵を返して歩きだす。エルドレッドは大人しく付いていった。港の外に出たところで、彼らは他のメンバーと合流する。優しげな笑みを浮かべた女僧侶と、軽薄そうな盗賊。どちらもSランクの達人だ。
「お話は終わりましたか?」
僧侶がエルドレッドに笑いかける。彼は無言で頷いた。
「でしたらすぐに出発しましょう。西の街道には、最近盗賊が出るそうなので」
「ついでに退治してきてくれって言われたんだ。人使い荒いよな〜」
盗賊が飄々とした態度で言う。エルドレッドは自分の荷物を背負い直して目を細めた。
(盗賊よりこっちの方が質が悪いと思うがな……)
周囲に人が多いから取り繕っているだけで、勇者パーティーの人々は誰も彼も、腹の底に何を抱えているか分からない。そう考えて、彼はため息をついた。懐にしまっている魔石が熱を持つ。悪魔が閉じ込められた石。旧時代に殲滅しきったはずの魔族が、石の中で生きている。
(まだだ。この小さな悪魔だけじゃあ、世界はひっくり返せない。今は力を蓄えて、味方を増やすことを優先するべきだ)
西の街道に向かって歩きながら、エルドレッドはそんなことを考えていた。