誘拐の真相
エルドレッドは男たちと共に砦に戻った。人の姿が無かったはずの砦には、帝国の正規兵が集まっている。
(……そういうことか)
一目見ただけで察しがついた。これは茶番だ。帝国がよくやる“遊び”の1種。人さらいの話も嘘だ。ヤドゥイの町長は、帝国から金を貰って嘘をついたのだろう。
(ノッておいて正解だったな。帝国が全面的に絡んでいるのなら、皇帝が主導しているだろうし……。変に逆らえば、面倒なことになるのは分かりきってる)
勇者パーティーの者たちの姿はない。完全に引き剥がされている。
(……おそらく、キアムという名の盗賊もグルだ。というか……この速さと手際の良さから考えて、大神殿にいた頃から準備していたんだろうな。司教が俺と接触したことを、あの盗賊が皇帝に報告した。その報告に、この指令が返ってきた。そう考えれば辻褄も合う)
何かあったわけでは無いだろう。そもそも目的のない旅だ。事後承諾で勇者に話を通しておきさえすれば、行き先を変えることなど簡単にできる。このまま男たちに従っていれば、後で合流することになるはずだ。そんな事を考えながら、エルドレッドは彼らに付いていった。砦の前に、小さな馬車が停められている。
「乗れ」
その馬車に、見知らぬ男と乗せられた。エルドレッドは、黙ってそれに従う。馬車が動き出す。
「……何も聞かないんだな」
同乗している男が話しかけてきた。それを少し意外に思いながら、エルドレッドは口を開いた。
「聞く必要がないからな。例えば、この馬車の行き先だけど……どうせ帝都だろ?」
「気づいていたのか」
男が驚きの声を上げる。エルドレッドはため息をついた。
「砦にあれだけ正規兵を揃えておいて、気づかない奴がいると思うか?」
「あれは旦那の私兵だろ? なんか特徴あんのか、あいつら」
「……帝国の紋章が、鎧に入っていただろうが」
「何それ。知らねえ」
「…………そうか。まあ、そういうのがあるんだ。それで見分けた」
「よく見てんなあ。他人の鎧の装飾とか、いちいち気を配る奴なんてそんなに居ねえぞ」
「まあ、帝国ならそうだろうな……」
悪逆非道、冷酷無情と囁かれる帝国。だが、その実態は違う。他の国から追い出されて行き場を失った者たちの、最後の受け皿。それが帝国の本当の在り方だ。犯罪も喧嘩も多いし、目に余る者は殺される。それでも、そこでしか生きていけない者もいる。全員が脛に傷を持っているので、自分の犯罪歴を気にする必要もない。更生……というのが正しいかどうかはともかくとして、帝国の法律に逆らわずに上手く生きている人間もいる。今、エルドレッドの目の前にいる男もそうだ。
(……ある意味では、分かりやすい所だ。皇帝も、司教と違って……本音を話してくれる男ではある)
もっとも、それでも何かの罪は犯しており……ついでに言うと今も帝国から見逃されているというだけで、改心している人間はあまり居ない。力のない弱者にとって、帝国は間違いなく『悪』だった。




