誘拐
翌日。エルドレッドたちは昼過ぎに、大神殿を出て北に向かった。そこで彼らは、ロッシュ山脈の麓にあるヤドゥイの町に立ち寄った。そして、その話を聞いた。
「人さらい、ですか?」
「ええ。最近この辺りに出没するのです。是非、勇者様に退治して頂きたく」
ヤドゥイの町長はそう言った。エルドレッドは油断のない眼差しで、その町長を見返した。
「そいつらがどこから来るのか、分かりますか?」
「いいえ。ただ、町の南端に放棄された砦があるので……そこから来ているのではないかと思っています」
「せっかくだから行ってみよう。まだ日が高いうちに」
勇者のその言葉で、エルドレッドたちは古い砦に向かうことになった。石造りの壁の表面にはつる草が這っていて、あちこちに緑色の苔が生えている。鍵がかかっているわけでもなく、中に入ること自体は簡単だった。小さな砦の中を、隅から隅まで探し回る。人はいない。大声で呼んでも、言葉が返ってくることはない。勇者が呟く。
「ここは、その人さらいのアジトじゃなかったってことなのかな」
「いや、まだ調べてない場所がある。逃走用に作られた抜け道だ」
エルドレッドは、砦の構造を知っていた。これは旧時代に、魔族との戦いに備えて各地に建てられたものだ。
「多分、この辺りだろ。1つだけ、大きさが違う石が……よし、これだな」
壁を触りながら、彼は仕掛けを作動させるスイッチを探した。それはすぐに見つかる。勇者が感心した様子で言った。
「流石は旧時代の英雄だ。こういうことには、慣れているのかな?」
「まあ、多少は。……そんなことより、入り口が開いたんだから行くぞ」
あくまでも逃走用に作られた道なので、薄暗い上に分岐が多い。エルドレッドでも迷いそうになるくらいだ。それでも何とか出口に辿り着いて、彼は外に出た。
「……っと、あいつらがまだ来てねえな。」
後ろを振り返る。そこには誰も居なかった。ため息をついて、彼は一応迎えに行こうとする。その時。
「エルドレッドだな。悪いが、俺たちと共に来てもらう」
周囲を囲まれて、彼は身構えた。
「嫌だと言ったら?」
「お前に拒否権はない。断れば人質を殺す」
その人質というのはどちらのことだろうかと考えて、どちらでもやる事は変わらないということに気づいた。グロウのメンバーは傷つけたくない。先ほどまで一緒に旅をしていた奴らが何の連絡も無しに居なくなれば、真っ先に犯人として疑われるのはエルドレッドだ。仮に犯人でないことを信じてもらえたとしても、それはそれで見捨てたことになるので後が怖い。エルドレッドは、黙って彼らに付いていくしかなかった。




