司教(前編)
呪いが完全に消えた街の中心で、エルドレッドは勇者たちと再会した。
「終わったみたいだね。……グロウは君以外、Cランクだったんだろう? 君はいつも、1人でやっていたわけだ。慣れているのも当然か」
エルドレッドは勇者の言葉に渋い顔をしたが、それを訂正することはなかった。訂正するのも面倒だし、勘違いしてくれるのならそれはそれでありがたい。
(昔は、4人でやっていたけどな)
グロウのメンバーは皆、穏やかで優しい人間だった。善良な者には、呪いの効力は弱くなる。だがそんなことを、わざわざ明かす理由はない。エルドレッドは目を細めた。遠くから、馬の足音が聞こえてくる。車輪が回る音もする。
「司教様よ! 司教様がいらっしゃったわ!」
豪華な装飾の馬車を見て、僧侶が叫ぶ。エルドレッドは嫌そうな顔をした。
(タイミングが良すぎねえか? さては知ってたな、俺が来たこと。ミドゥの街に向かったことも……。報せたのは、あの司祭か)
馬車が停まる。上等な僧服を着た人が降りてくる。彼はエルドレッドを見て笑った。
「久しぶりですね。貴方ときたら、全くこの国に来てくださらないものですから……忘れられたかと思っていましたよ」
「すみません、司教様。色々と忙しかったもので。そんなことより、どうしてこの惨状をすぐに知らせてくださらなかったんです? ミドゥの街が呪われたことは、既にご存知だったでしょう。司教様のことですから」
エルドレッドは精一杯の皮肉を込めて告げた。司教は暗い顔をしてみせた。
「それが……ミドゥの街にいる司祭が申していたのです。この程度のこと、エルドレッド様のお力をお借りするまでもない。自分で片をつけてみせると。ですからその意志を尊重したのですが、この様子では……。彼女の力は、及ばなかったようですね。残念です」
どこまでが本当のことなのか、エルドレッドには分からなかった。だから彼は、1言だけ返した。
「誰にでも可能な対処法があったでしょう。箱を開けなければ良かったのです」
司教はその言葉を聞いて、我が意を得たりといった様子で頷いた。
「ええ本当に。ですが私がそのように忠告しても、彼女は聞く耳を持ってくれず……結果として、このようなことになってしまいました。私は彼女を止められなかったのです。ですからエルドレッド様が呪いを解いてくださって助かりました。私の信徒は、お役に立てましたでしょうか」
エルドレッドが目を細める。彼の信徒とは、今そこにいる僧侶のことだ。呪いの残滓が残っていないことに、彼は気づいている。ここは誤魔化してはならない所だ。
「いいえ。……失礼を承知で申し上げますが、司教様の信徒はこれを見て、魔女の呪いだと言ったのです。本物の呪いを知らない彼女に任せるより、私がお預かりしておくべきかと。そう思って、私が引き取らせていただきました」
司教が少し意外な様子でエルドレッドを見る。彼は真っ直ぐに、司教の目を見返した。




