奥の手
起点は壊した。呪いの中核は跡形もなく消えた。
「後は、この呪いの残滓をどうするかだな」
黒い靄の欠片はまだ、屋敷の中に残り続けている。街を覆う黒雲も。この街は既に呪われた地となった。完全に元に戻すには、浄化の儀式を行う必要があるだろう。
(ロドニーがいればあいつに頼めるんだが……ラディに任せるのは不安だな)
土地の浄化ができるのは僧侶だけだ。エルドレッドがルーシャたちと作った、グロウというパーティーにも僧侶がいた。ランクはCにギリギリ届く程度の低いものだが、彼以上に信頼できる僧侶はいない。誠実で真面目で、丁寧な仕事をする男だった。だが、今ここにいる僧侶は彼ではない。冒険者としてのランクは彼よりも高いが、色々と問題がありすぎる。とはいえ、この場にいる僧侶は彼女だけだ。浄化は彼女に頼むしかない。
(何か他の方法があればいいけど……魔族の呪いだから、残り物の対処にも気を使わないとならないんだよな。まだそんなに広がってないから、あと出来ることといったら……相性が良い物に全部吸い込ませて、呪いの品にすることくらいか。何か良さそうな物は持ってたか……?)
懐に手を入れて、エルドレッドはふと気づいた。そういえば。
(悪魔が入ったルビーがあったな。……こいつに食わせればいいんじゃないか?)
懐から赤い魔石を取り出す。石の中の悪魔が目を開けた。
「これは……呪いの残滓か。何のつもりだ、人間」
「食べていいぞ」
エルドレッドは迷わなかった。悪魔が嗤う。
「オレを育てて何をする気だ?」
「いつか強い悪魔になって契約してもらう。世界の裏側に繋がる道を開けるほどの、強大な悪魔になってな」
悪魔は呆れたような顔をした。
「人間。貴様は変わったやつだな。だが嫌いではない。それに、力をつけるのは良いことだ。だが覚悟しろよ。オレが最強の悪魔になったら、貴様など一口で飲み込むかもしれんからな」
「おう、飲み込めるもんならやってみてくれ」
エルドレッドは平然とした顔で告げた。悪魔に対して隙を見せるのは良くないことだ。ハッタリでもなんでもいい。とにかく、自分の方が強いのだと示さなければ話にならない。石の中にいる悪魔が笑い出す。
「気に入った! 気に入ったぞ人間! 良かろう、まずはこの呪いを食ってやる。貴様を丸飲みにするのはその後だ!」
黒い靄と黒雲が、赤い石に吸い込まれていく。エルドレッドは、黙ってそれを見守った。呪いを綺麗に食べきった悪魔は、ルビーを割って出ようとした。石は割れなかった。エルドレッドはそれを確認して、楽しそうに笑ってみせた。
「ほらな。丸飲みには出来なかっただろ」
悪魔は不服そうな顔で黙った。この結果を予測していた彼は、上機嫌で魔石を懐にしまった。




