呪い(後編)
エルドレッドはまず、街の教会に向かった。小さな教会を隅から隅まで調べて、彼はため息をつく。
「ここに起点はないな。司祭の家か」
勇者たちには探してくると言ったが、実は既に起点がある場所の目星はついている。
(“箱”がそこら辺に落ちてるわけがない。司祭が何かしらの目的で、密かに手に入れていたんだろう)
魔族の呪いは強大だ。けれどそれにも、1つだけ欠点がある。それは、人でなければ起動させられないということだ。魔族は呪いを箱に詰めた。そしてその箱を人間に開かせることで、世界に呪いを振りまいた。今回も同じだ。この街のどこかに、魔族が遺した箱がある。新時代において、そんな物を入手できる人間は限られる。エルドレッドは街で1番大きな家の前に立って、扉を叩いた。返事はない。
「すいません。どなたかいらっしゃいますか?」
声をかけて扉を開ける。そしてすかさず、体を少し横にずらす。先程までエルドレッドがいた場所……扉の正面に向かって、黒い靄が吹き出した。一目で分かる。起点があるのはここだ。エルドレッドは屋敷内に充満していた靄が抜けるのを待って、屋敷の中に踏み込んだ。そこは酷い有様だった。豪華な調度品は叩き割られていて、あちこちで人が倒れている。
(呪いの箱を開けるからだ。命知らずにも程がある)
司祭もおそらく、既に生きてはいないだろう。辺りに転がる死体を埋葬してやりたい気持ちはあるが、それはこの呪いをどうにかしてからだ。呪いが特に強い場所を探して歩く。庭に出たところで、エルドレッドは起点を見つけた。それは1本の大きな木だ。根本に箱が埋まっていて、その前に女が倒れている。服装からして、倒れているのが司祭だろう。
(この木は……神がこの地に残したっていわれてる、聖なる木だな。一応、呪いに対する対策はしてたわけか。意味は無かっただろうけど)
司祭が何を考えて箱を開けたのかは知らない。彼女が死んだ今、それは誰にも分からないことだ。エルドレッドは木に近寄って、剣を抜いた。
「……よし。やるか」
大木を見すえる。剣を振るう。まず枝を切り落とし、幹を縦に割る。次に根を全て切り落として、最後に箱の周りの地面を抉る。一息の間に、彼はその全てをやり終えた。真っ二つにされた木が倒れる。黒い靄が木から染み出す。彼は素早くその場を離れた。靄はまるで意思を持っているかのようにグネグネとうごめいていたが、やがて霧散した。エルドレッドはそれを確認して、ようやく安堵の息を吐いた。




