呪い(中編)
昼だというのに、ミドゥの街の周辺は黒い雲に覆われていた。一目で分かる、呪いの影響。エルドレッドはため息をついた。
「……本物の呪いかよ……どっから引っ張り出してきた……?」
「これは、魔女の仕業ではないのですか?」
僧侶が不思議そうにしている。エルドレッドは目を細めた。
「こんなもんが人間に扱えてたまるか。これは正真正銘、魔族が残した呪いだ。俺たちが全国を回って、地道に浄化したはずのモノだ。残ってるってことは、誰かが隠していたんだな。……この国では審問から何から、色々あってバタバタしてたから……見逃すことも、あり得ない話じゃない」
グロウにはルーシャが……魔女がいた。エルドレッドが司教の手で神の子供として認定されていなければ、彼女は殺されていたかもしれない。だからといって、司教に感謝する気は更々ないが。
(そもそもあいつらが言い出したことだからな。どうせ、外に分かりやすい敵を作っておこうって腹だったんだろ)
黒雲の前で立ち止まる3人を置き去りにして、エルドレッドは街の中に入っていった。盗賊が驚愕を顔に出す。
「こんな、どう考えてもヤベェとこに……サラッと入っていくんじゃねえ! 何考えてんだ!」
「どう考えてもヤバいから入るんだろ。放っておくと大陸中に広がるぞ。大丈夫だ。お前らが本物のSランクなら、入ること自体は問題ない」
勇者が強張った表情で足を動かす。盗賊と僧侶もそれに続いた。エルドレッドは無言で彼らの様子を観察していた。黒雲に対する恐怖はあるが、それでもキチンと進めている。
(金や権力で無理やりランクを上げたような奴らじゃないな。人格はともかく、実力自体はSランクに届いてる)
街の中に人の姿はない。当たり前だ。これはランク外の一般人が無事に生存できるような、生易しい呪いではない。
「……ほらな。無事だっただろ。この手の呪いを通り抜けられるのは、グロウでは俺だけだったが……実力があるお前らなら、呪いの中でもある程度活動できる。手分けして、起点をさがすぞ」
「いや、ものすごい重圧を感じているけれどね……? とても歩きにくい。君は平気なのか?」
勇者が呻く。エルドレッドは冷たい声で告げた。
「そりゃそうだろ。魔族の呪いだぞ。悪意や敵意が強い人間には、より強い毒になる。これまで好き勝手やってきた報いだよ。まあラディはその点、分かってないだけだからそれなりに軽いだろうけど」
「はい! 神を信ずる気持ちがあれば、この程度はどうということもありません!」
僧侶は胸を張った。勇者と盗賊が、そんな彼女を恨めしげに見る。エルドレッドは街の奥を指さした。
「俺は北に……ここから更に奥に行く。西と東と南、誰がどこを担当するかはそっちで決めろ。起点を見つけても手は出すな。下手に壊すと暴走するぞ。俺が見つけたならそのまま対処する。そっちが見つけたら、俺に知らせてくれ。すぐに向かう。……やることは分かったな?」
彼らは素直に頷いた。これは自分たちの手に負えるものではないと、本能で理解したのだろう。
(今回ばかりは、俺だけでも来られて良かったな。グロウの皆がいれば、話はもっと早かったけど)
エルドレッドはそんな風に思いながら勇者たちに背を向けて、街の奥に向かって歩いていった。




