呪い(前編)
「……エルドレッド様はどうやら本物の、神の御子のようですね。そんなあなたに頼みがあります。魔女の呪いを、解いてください」
最後の足掻きのつもりなのか、司祭はエルドレッドたちにそんな頼み事をしてきた。
「北の方にあるミドゥの街で、最近魔女が処刑されたのです。その魔女が、どうやら呪いを残していったらしく……」
「ミドゥの街ならここから近いね。歩いていけるし、せっかくだから寄ってみるかい?」
「ええ勿論! 皆様がお困りなのでしたら、解決しなければなりませんね。それにこちらにはエルドレッド様がいらっしゃいますから、魔女の呪いを恐れる必要はありませんわ」
勇者と僧侶がそう言って、盗賊が黙って肩をすくめる。エルドレッドは目を細めて、ため息をついた。
(魔女の呪い、ねえ……。火竜以上に眉唾ものの話だな)
魔女とは勇者や盗賊と同じ、職業の名だ。けれど神聖国では、別の意味を持っている。大鍋で薬草や怪しげな生き物を煮る、人を害する悪魔の使い。そう信じられて、迫害されている。
(ルーシャも魔女だ。今は皇国にいるが……神聖国に頼んであいつを助け出すとしたら、また色々と言われるんだろうな。司教の審問で、今度こそ罪人にされる可能性も……。そうなると帝国に頼るしかないが、キアムと手を組むのは気が進まねえな……)
エルドレッドは悩みながら、勇者たちと共に港を出た。僧侶が彼に笑いかける。
「大丈夫ですよ。天におわします我らが神は、いつも私たちを見てくださっています。きっと今日、あなたがここにいらっしゃったことも神のお導きですわ。神のなさることに間違いはありません。ミドゥの街は、必ず救われます」
「……そうだな」
エルドレッドは言い返したい気持ちを抑えて頷いた。僧侶はおそらく、本気で神を信じているのだろう。
(俺としてはルーシャたちが拐われそうになった時に何もできなかったから、神の力なんて無いと思ってるけど……。そんなこと、わざわざ言うことじゃないしな。それにこのラディって僧侶、ちょっと抜けてるところがあるし。……この様子だと、人質のことも誤魔化されてるかもしれないな。誘拐して監禁してるんじゃなくて、昔の仲間と離れ離れになった……みたいな作り話をされてそうだ。……その内の1人は魔女だってことも、多分知らないな)
上手くすれば、僧侶から人質の居場所を聞き出せるかもしれない。けれどそれは諸刃の剣だ。もしそんな話をしているのがバレたら、勇者たちは間違いなく引っ掻き回しにくる。例えば……エルドレッドは既に、魔女に誑かされているとか。
(そんな話になったら最悪だ。1番助けたい奴に手が届かないし、司教はここぞとばかりに審問の準備をするだろ)
今はとにかく、ミドゥの街に向かうべきだ。呪いの話が嘘だと分かれば、僧侶の考えも変わるかもしれない。そう考えて、エルドレッドは無言で勇者たちに付いていった。




