火竜の正体(後編)
必要な物を買い揃えて、エルドレッドは宿に戻ろうとした。その時。街中で、彼はキアムの姿を見かけた。
(何をしてるんだ?)
キアムは見慣れない男と向かい合っていた。場所は路地裏。何か話をしているようだが、距離があって聞き取れない。エルドレッドは彼に気づかれないように、足音を殺して近づいた。彼らの会話が断片的に聞こえてくる。
「……からさ、もしもの時は……よ」
「な……ようはない……火竜の……」
火竜という単語が聞こえて、エルドレッドは足を止めた。
(あの男は、火竜のことを知っているのか。……気になるな)
周囲を見る。勇者と僧侶の姿はない。エルドレッドは空になった酒樽の陰に隠れて、彼らの会話に耳を傾けた。
「だってさあ。お前が一緒に居るのって、Sランクの奴らばかりだろ。お前だってそうだし。だからお前が来てくれないと困るんだよ。こっちにはAランクの戦士とCランクの魔法使いしか居ないんだから」
「何度も言ってんじゃん。ムリだって。そんなの最初から分かってただろ。この計画に加担した時点で、お前はもうそっちの道に踏み入ってるの。分かる?」
「分かってるよ! でもお前は帝国の人間だろ! 帝国の作戦を邪魔して、許されると思ってるのか?!」
「あーもう、うるせぇ……」
キアムがナイフを投げる。それは男の心臓を貫いて、その勢いのまま地面に刺さった。石畳に男の血が滴る。
「なん、で……?」
「臆病者はいらねえよ。帝国はちゃんと分かってる。エルドレッド・フェアクロス=アスカム。旧時代の立役者にして、創造神の血を引く半神半人。神の子はもう全員殺されて、残っているのはアイツだけ。生きて手に入れれば、その国は新時代の覇者となる。いいか、オレたちは選ばれたんだ。エルドレッドを手に入れてこいと言われて送り出された。火竜の名を借りた帝国軍の略奪なんてケチな任務、今オレが就いてるヤツに比べたら子供のお遊びみたいなもんだ。オレたちがここに来ることは報告したはずだ。罪を肩代わりする人間を選ばずに、今日まで待ってたお前が悪い」
男が倒れる。彼はもう動かない。彼を殺した人間は、平然とした表情で死体の横を通り抜けた。エルドレッドは息を詰めた。キアムは彼に気づかず、樽の横を通り過ぎて通りに出る。死体と共に取り残されたエルドレッドは、しばらくそこで呆然としていた。
(火竜の名を借りた略奪。その可能性は考えていた。そういうことをするのが、帝国だけだということも。……だけど、こんなことって)
期待していた。本当に龍が生き残っているのではないかと。裏側への道を開くのに必要な物は、新時代では中々手に入らない貴重な品だ。火竜との戦いの中で、偶然を装って鱗を剥がそうとしていたのに。
(……また1から計画を練り直さないと)
エルドレッドは目の前に転がっている死体を見て、深いため息をついた。




