火竜の正体(前編)
(昨日は結局、ほとんど寝られなかったな……)
手で口を押さえながらアクビをする。昨夜の誘いを断った後に、エルドレッドはすぐにベッドに入った。けれど中々寝つけなくて、結果的に寝不足になってしまった。
「おい。今日はロッソの街でいいよな? ネージュの街との交流もあるし、火竜の情報が入ってきてるかもしれねえ」
「どうしようかな……ラディ、君はどう思う?」
宿の1階で朝食を取りながら、勇者が僧侶に問いかける。彼女は優しげな笑みを浮かべて言った。
「火竜の行いで苦しんでいる方がいらっしゃるのです。一刻も早く救わなければなりません。ですから私は賛成ですわ」
2人の視線が衝突する。先に目を逸らしたのは勇者の方だった。
「仕方ないな。でもエルドレッド、君はあまり休みが取れていないようだけど……代わりの御者を雇おうか?」
「要らねえよ。眠りが浅かっただけで御者が出来なくなるような、ヤワな体じゃねえからな」
「そっか。それならいいけど、無理はしないでくれよ。君は僕たちの大事な仲間なんだから」
「……ああ。分かってるよ」
会話が途切れる。4人は朝食を食べ終わると、無言で席を立った。エルドレッドが馬車を動かして、宿の前に移動させる。勇者たちが馬車に乗り込む。エルドレッドは彼らが席についたのを確認して、馬車を動かし始めた。林を抜けて、荒れ地の横を通る。川に架かった橋を渡る。その先に、ロッソの街はあった。ケズルの時と同じように、門を抜けて宿に向かう。その道中で、エルドレッドは見た。遠くで煙が上がっている。白くて細長い煙だ。
(ネージュの街の方角か。火竜の仕業かどうかは分からねえが、火事になってることは確かだな)
エルドレッドは目を細めて、勇者に声をかけた。
「悪いが宿には後から行く」
「ああ、それは別に構わないけど……あの煙がそんなに気になるのかい? 火竜の噂は、事前に聞いていただろう」
「まあな。……あの煙は、色が薄すぎる。火竜の炎の強さは、奴らが胃の中に蓄えた石炭の質と量に左右される。あの煙の色は、相手が上等な石炭を多く食べた火竜である証だ。偽物なら何の問題もねえが、本物なら厄介だからな。火傷に効く薬草や包帯を買い足して、魔石も少し補充しておく」
「そういうことなら金を渡すよ。好きに使ってくれ」
勇者が金貨の詰まった袋を投げる。エルドレッドはその袋を受け取って、通りの向こう側にある店に向かった。
(火竜か。……思い出すな)
旧時代に倒した魔王。彼は死んだが、魔族が滅びたわけではない。死ぬ直前に、彼は最期の力で生き残った魔族を世界の裏側に送った。
(あの道をもう1度開くには、龍の鱗と月下蕾と……人魚の涙が必要だったか。どれも簡単に手に入るような物じゃねえな。それに、あいつらにバレたら人質が危ねえ。どうするか……)
エルドレッドは懐に手を入れた。悪魔が入った魔石を掴んで、深呼吸をする。
(焦るな。今回が無理でも次がある。とにかく今は、あいつらに従っているフリをするんだ)




