東都 北西地区β- 十月十三日 午前十時三十分
─今から凡そ百年前
全世界を巻き込んだ大規模災害以降、極東国は大きく五つのエリアに区分けされ、其々を【都】とした
その【都】は六つの地区に分けられており、更に細かな等級付がなされている
水を掬った柄杓を御影石の石塔へ傾け、薄くまとわりつく細かな土埃を流す。
綿布巾でその形をなぞるように拭い、粗方の汚水を掃除したところで、首に下げていた銀製のロケットペンダントの一つを外して水鉢へと開き置く。
「悪ィな伊純、月命日よか早い顔見せで。ま、許してくれよ」
仏花を花立てへと飾りながら、ロケットの中で微笑む女性へと呟く。
仏花と線香を供えて手を合わせてから、コート裾から煙草を取り出し、甘い香りを纏う一本を銜えて唇で遊ばせる。
自身が身を置くα地区と較べると治安は少々不安定ではあるが、墓地と言う事もあり人も少ない。
周囲に人が居ないのを確認し、他人の墓地と区分けをしている壁石へ腰を下ろす。
「久々に、子どもの警護依頼を請けた」
墓前に置いたロケットに写る愛妻 ー新堂 伊純へ語り掛けるように言葉を落とし、煙草に火を入れて煙を薫せながら、疾風は石塔を見つめて目を細める。
「本当は請けるつもりなかったんだが、お前が居たら『請けてやれ』って騒ぐ気がしてな」
もしお前達がいたら、一緒に遊んだりしていたのかもな。
ポツリと呟き、吸いきったそれを携帯灰皿へ入れ、少し短めのペンダントチェーンを首へ繋ぎ直す。
「今回の件、解決したらまた来るわ」
水鉢に水を充たし、足場へと水を撒く。
墓石の側面に彫られた戒名を指で辿り手桶を掴むと、別れを惜しむかのように空いた手を振ってその場を後にした。
依頼人 高遠 静瑠(19)
依頼内容 指定対象者の警護
請負期間 指定無し
対象者 姫築 飛鳥(9)
受諾人 新堂 疾風 新堂 疾斗