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7/23

☆彡 7 ☆彡


「ランチのお相手がわたくしでよろしいのかしら? 占い王子がしょんぼりなさってるのではなくて?」


 空き教室で一緒に腰を落ち着けたとたん。ニヤニヤしながら言う愛李の前で、私は椅子をガタっと鳴らして驚いた。


「な、なんで知ってるの!?」

「飯尾ファンの間で噂になってるらしいよ。あたしは今朝、島さんに教えてもらったばっかりだけど。てか質問攻めされて、ゆかりんが占い好きなの話しちゃった」

「え……」

「ごめんごめん。でもその件は広めないって約束してもらったから。『飯尾君の方から申し込むレベルって、保科さんやばくない!?』って尊敬?してたよ」


 島さんは去年私たちと同じクラスだった女子だ。

 彼女も飯尾のファンだそうで、手相の話題で話しかけてみたことがあったらしい。でも深すぎる話についていくのを断念したらしい。(そこで諦めずに食らいついてほしかった。そうしたら私が狙われずにすんだかも……。)


「でっ? 飯尾君と付き合ってるんだっっ!?」


 好奇心でキラキラの瞳で質問され、ため息とともに購買パンの袋を開ける。

「誤解だってば。現場を見てたうちのクラスの皆は知ってるのに。噂こわ」


 愛李とはだいたい週1ペースで一緒にお昼を食べる。今日は私の方から誘って、飯尾とのことを話すつもりだった。

 現実のいきさつを説明すると驚いたあと、少し真面目な顔になった。


「ベンチの裏が自宅かぁ。世間は狭いな~。てか飯尾君、マジなんじゃない?」

「いくらマジでも、こっちに弟子をとる気なんて……」

「そうじゃなくて。ゆかりんのこと好きなんじゃないの?」


 ……なにを言ってるのかな、この子は。


「話聞いてくれてた? 飯尾君が占い沼にハマりこんだ理由は、幼馴染の千晶さんを支えるため。純愛だよ、純愛」

「もちろん聞いたうえでの分析結果。あたしってそういうの得意な星のもとに生まれてるんでしょ? かしこい頭脳が弾きだした結論。それ、ゆかりんの思い込みだよね? 本人は幼馴染が好きだなんて一言も言ってないよね」


 愛李は太陽が天秤座。それが双子座と水瓶座の天体と「グランドトライン」という強力なアスペクトを形成している。

 この3星座は風のエレメントという仲間同士で、客観的で合理的な思考、頭脳労働なんかが得意なタイプだ。グラトラでその性質が増幅している、と解釈できる。


「そもそも『付き合って』って言ったのに、ゆかりんに『どこへ?』って返されちゃったから、仕方なく今の流れになった感じも。そう考えるとすごくかわいそう。だが顔と同じくらいハート強し」


 愛李の成績はほどほどだ。でもなんとなく地頭のよさは感じる。

 だからって、今回ばかりは妄想過多な意見に呆れるしかない。


「ちょっと愛李、本気で言ってないよね。あり得ないよ」

「ゆかりんこそ本気でその思い込みを維持するのが難しくなってきたから、今日はあたしのところに逃げてきたんじゃないの?」

「なっ……!?」


 愛李の指摘に、つい上擦った声がでた。


 昨日、ひとの純粋な言葉をエロ変換していじってきた時の、変な色気がだだ洩れの顔とか声とか。

 会話を思い出し、じわじわ頬が熱くなるのを止められない。



「保科さんの誕生日、大体このへんだろうなって見当はついてる。答え合わせがしたいんだけど、だめ?」

「だからっ……、私のネイタルなんて見る必要ないでしょ!」

「いやいい加減、妄想シナストリー見るのも限界で」


 誰と、誰の、妄想シナストリー!???


 シナストリー(二重円)とは。二人のネイタルチャートを重ねて相性などを見る方法だ。

 どうやら飯尾は、会話から推測した私のネイタルと自分のそれで出したシナストリー(仮)を見ていたらしく……って何がしたいの。意味がわからなすぎる。


「保科さんだって、本当はオレの誕生日気になってるよね?」

「そんなことないし」

「嘘だ。――オレが何考えてるのか、暴きたくなってきてるだろ」


 目を逸らすと。今までよりも声が近くで聴こえた。

 間にもっとあったはずの空間が詰められ。落とした視線の先、小指をちょっとでも動かしたら、きれいな長い指先にぶつかりそうなのを見た瞬間――


 私はその場を逃走した。(途中まで追いかけられていた気もするけど、火事場の馬鹿スピードを出して振り切った。)



 それでなんとなく、飯尾と顔を合わせづらくなり。今日は落ち着く相手と過ごして、メンタルを立て直すつもりでいたのに……。

 思わず動揺する私へ、愛李が指先をつきつけた。


「かしこく鋭い頭脳で、ついでにもういっこ当ててしんぜよう。フェスに着ていく服、相談に乗ってほしいんでしょ」


 本当に鋭い。

 12星座いちオシャレとされる天秤座。実際に愛李はセンスがいい。


「……デートっぽくならず、変な期待をしてる女に思われず、無難だけどイケメンの隣にいても悪目立ちしない、ただのクラスメイトとして最適解な服装をご指南いただけたらなって……」

「欲張りすぎだろ」


 机に額をこすりつけてお願いすると、風星座の冷風(つっこみ)がとんできた。


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