☆彡 5 ☆彡
飯尾が自分の右手の平にうっすら浮かぶ『×』をじっと見る。
「ほんとだ。気付かなかった」
「薄いから、今すぐ悔い改めればきっと消えてくれることでしょう……」
「悔い改めるって? 具体的に」
「私に弟子入りとか変な考えはやめて、千晶さんに正直に全部話して、占いなしの普通な応援をしなよ」
私の開運アドバイスを聞くと、じわっと不満顔になった。
「普通に応援する気はあるけど。べつに千晶のことがなくたって、もっと自分なりに占いを深めたいと思って、」
「そこまで本気なら、プロの占い師に弟子入りすればいいじゃない」
「……卒アルに書くくらい本気だった保科さんは、独学で詳しくなったんだよな。そういう人が身近にいるのに、スルーするなんてもったいないだろ」
なぜ貴様が私の黒歴史を!? ……って、自分で(愛李に)話したんだっけ。
飯尾がひとつため息をつき、携帯をぐいっと私の顔の前へ持ち上げた。
「いいよ。フェスが終わるまでには落とすから。――ほら、千晶のホロ見て。なかなか癖が強くて面白いよ」
(今、落とすって聞こえたんだけど……)
独り言めいた呟きに恐れおののいたのも束の間。
私は沼の住人に手招きされるがまま、西洋占星術の深い沼の底へと引きずりこまれてしまった。
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(まだ歴1年くらいなのに。私に教えを乞う必要のない立派な玄人だよ、あの人)
公園でさんざん話し込み。
薄暗くなった駅までの道。電車内は音量控えめで。そして自宅へと続く道。
何度断っても「まだ話し足りない」と言ってついてくる飯尾の、教室では見たことのない饒舌っぷりを思い返して、私は机に突っ伏した。
このところ黙々とこなせていた勉強が手につかない。
原因はもちろん、あのヲタクだ。
(確実に沼に引き戻そうとしてきてる……)
そんなにも趣味友に飢えてるのか。
飯尾のファンの誰か、今からでも一緒にハマってあげたら? 放課後二人っきりでお喋りして、家まで送ってもらえるよ。その間ずっと玄人向けトークだけど。
(占い、本当に好きなんだなー)
(ただしハマるきっかけは、落ち込んでる幼馴染を励ましたかったから。それって……、それ以外に考えられないよね)
(飯尾君。千晶さんが好きなんだ)
きっと好きな人の役に立ちたいのだろう。純愛だ。
さらに占いを使って、この先も彼女から頼られる存在でいたいのかもしれない。そしてあわよくば……、
(あ。本気のアイドル志望なら、大事な時期に男と付き合ったりしないか)
(いいのかな? アイドル活動を応援するってことは、それだけ千晶さんの彼氏になれる日が遠くなるってことだよ~?)
賢そうな知能線の持ち主だ。その程度のことは当然分かってるか。
どっちにしろフェスが終わるまでは趣味友(仮)みたいな立場だ。
ほんの二週間弱くらい、意外にも純愛中らしいクラスメイトに協力してあげてもバチは当たらない気がする。
「千晶さん。確かにいつまで見ていても飽きない、味わい深いホロスコープの持ち主だったしね」
私は再燃させられつつあるヲタ心を抑え、集中して学校の課題を終わらせると。
クローゼットの奥から西洋占星術の本をいくつか引っ張りだして、机の上に積む。それから充電が完了した携帯を手に、占い研究系サイトの巡回をはじめた。