☆彡 20 ☆彡
参道をまっすぐ進み、中央の拝殿へ。
飯尾と並んでお賽銭を入れ、一緒に軽く鈴を鳴らし、二礼二拍手。両手を合わせ目を閉じる。
……隣が気になって集中できない。
隣をチラ見。意外と真剣に祈ってる。
ストーカー行為は口実で、実は何か叶えたいことでもあるのかな。
こっそり見ていると、両手を合わせたまま横目を向けた。
「……長いね」
「真剣勝負の前だから」
ちょっとからかい気味に言ったらまじめに返された。
誰とどんな勝負をするんだろう。
少し気になったけど、お参り中に無駄話はよくない。一礼して移動する。
境内の一角には池がある。そこにかけられた橋の中ほどまで行くと、飯尾が立ち止まった。
一緒に穏やかな水面を眺める。カルガモがのんびり泳いで横切っていった。
「前は御利益とか一切信じてなかった。受験の時ですら参拝なんてしなかったな」
唐突な言葉に、私は納得した。
「飯尾君、根っこはどちらかというと科学主義寄りだもんね」
これは占い結果ではなく、今までの言動から感じた感想だ。
悪い意味ではない。ほとんどの現代人に当てはまる価値観だと思う。
「そう。ありがちな科学信者。12星座占いを本気で信じるひと、宇宙人だと思ってたレベル」
う~ん。不思議と想像がつく。
その頃はたぶん今より、スタンダードにおモテになっていたんだろうなぁ……。
カルガモが戻ってきた。その後ろをわちゃわちゃと、小さな黄色の毛玉たちが追いかける。ヒナだ!かわいい~!!
携帯をとりだし、仲良く泳ぐ親子を写真におさめた。
なごやかな癒しの風景に思わず頬がゆるむ。
「じゃあ飯尾君は、自分が宇宙人になっちゃったんだ」
ゆるんだ顔を向けて話を再開する。と、真剣な瞳で見つめられた。
……何か変なこと言ったかな。あと心臓に悪いから、せめて悪巧み中の黒い笑顔とかに変更してほしい……。
「まじで宇宙人に連れ去られて魔改造されたくらいの変化。――こうなる前はいつか千晶と付き合ったり、結婚したりするのかもなって、勝手に思ってた」
なぜか追い詰められている気分。まっすぐな視線から逃げるように、池へ目を戻した。
「千晶を好きかどうか、どう思われてるかは興味なくて。周りにお似合いって言われたり、親同士が仲いいから、いろんな意味で楽な相手?みたいな認識で」
やっぱり飯尾君は千晶さんが好き……なのかな? なんか判定しづらい表現だ。
反応に困る私を見て、どこか楽しそうに目を細めた。
「早い話、自分にも周りにも興味がない。つまんない奴だったってこと」
☆彡
なんとなく歩いて、社務所をのぞき、なんとなく二人でおみくじを引いた。
「中吉だ~」
「末吉……」
「大事なのは内容だよ」
「願いごと……障害あり。あせらず誠意を尽くせば叶う……」
「大丈夫、叶うって断言してもらえてる!」
深くうなだれる飯尾に慌ててフォローすると、
「こういうので一喜一憂できるようになったのも、保科さんのお蔭」
……私じゃなくて、占いにハマったお蔭だと思うけど。
顔を上げて天使みたいに微笑んだ。やっぱり今日の飯尾、心臓に悪い……。
「そ、それで。私に話したいことって何?」
直視してると目が溶けそうなご尊顔に耐えられず、やっと本題を切りだした。
ここまできたら逃げても仕方ない。パワスポからパワーを補充しつつ、恋愛相談でもなんでもやってやろうじゃないの。
珍しくちょっと緊張ぎみに、飯尾が頷いてみせた。
「……その前に。これ、結んできていい?」
おみくじを片手で掲げ、真剣な面持ちで言うのに頷き返す。
私もおみくじは結ぶ派だ。お焚き上げって、不思議なスッキリ感があるよね。
おみくじ掛けは境内の裏手あたり、摂社の拝殿の奥にあった。
この摂社は天満宮。学問の神様、菅原道真公を奉る神社だ。
おみくじ掛けの隣の絵馬掛けには、華やかな絵馬が所狭しと並んでいた。
その絵馬掛けの前にぽつんと人が佇んでいる。
私は思わず足と一緒に数秒、呼吸まで止めた。
近付く私たちに気付いて、絵馬を見ていた少年が振り返る。
この偶然に相手も同じくらい驚き、大きく目をみはった。
それから硬い表情のまま、瞳に剣呑な光をともした。
目をそむけて今すぐ走り去りたい。
だけどこれは逃げ癖のある私への、神様からの嫌がらせ……、いや試練なのか。
「――――中嶋君」