☆彡 17 ☆彡
コールド・リーディング。
首を傾げる私へ、飯尾が少し考えてから続けた。
「バーナム効果、とかにも近いかな」
「あ、それはなんとなく知ってる」
誰にでも当てはまる内容を、言われた方が「自分のことを言い当てられた」って思い込む。という心理学系の話だったはず。
「ようはプロファイリングみたいなもの。言動を観察し、さりげなく情報を引き出したりして、“心を読まれた”と相手に錯覚させる会話テクニック」
ビジネスマンや占い師、……詐欺師も使ったりする話術だそうだ。
「必ずしも悪いものじゃないよ。うまく使えば、初対面の相手との信頼関係を築きやすくなる。まっとうな占い師にも、ある程度必要なスキルだと思う」
「うん。テクニックそのものに、いいも悪いもないよね」
どんな技術も、使う側の目的次第だ。
相手を騙そうと思えば、詐欺に。心を開いて信頼してほしいと思えば、人間関係を円滑にする対話になる。
ちなみに“コールド”とは“前情報なし”って意味らしい。
偶然とはいえ今回は、カンペを仕込むやり方の“ホット・リーディング”に近いそうだ。
「たまたま出会った人が、千晶さんと数分差の誕生日。あんな偶然あるんだね」
「言動がこじらせてる時の感じに似てるとは思ったんだ。けどまさか、まじで同日生まれって……」
どことなく放心したような声。さすがの飯尾も、本気で驚いていたみたい。
「……でも最初のうちは“あいまいな表現”で“おだて”たけど、うまくいかなかったよね。占い結果とも矛盾しない内容だったのに、なんでかな」
「あれはあえて失敗させたんだ。千晶の時の経験を活かして」
占い脳で言わせてもらうと。同じ誕生日なら、やっぱり似通った人物像になる。
二人は、一度思い込んだらなかなか方向転換しにくい頑固な性質、と占い結果は示していた。
「寄引は『占い≒高いツボとか買わせる怪しい詐欺』みたいな、典型的否定的な先入観の持ち主だったからな。真面目に話しても全部疑ってかかる。だからはじめは好きなだけ疑わせて、油断したところを攻めた」
そして、カナルが軽薄そうな演技の奥に隠していた、
“好きなものへのストイックな姿勢”、“向上心とプライド”、“実は努力家”……、
(チケットを見せてきた時。小さめのバッグの中に、袋入りマスクやのど飴が入っているのも見たそうだ。)
観察と占術両面から見抜いた性質を、まずは煽って、怒りで判断力を狂わせて。
一転、それとなくおだてを交えた話術を駆使した結果。
「“占いでぜんぶお見通し”かのように思わせて、信用してもらったんだね」
「まぁ、信じないって断言はされたけど」
「口ではああ言っても、きっと飯尾君から欲しい言葉をもらえたんだと思うよ」
晴れやかな表情だった。無言で残していったチケットも、その証だろう。
「今すぐ占い師を名乗れるレベル。私が教えられることなんて、全然ないや」
心から思ったことを言うと。なんかジットリした目で見られた。
「いや本当に、すごいなって」
「保科さんは本来、健気に慕ってくる相手を冷たく突き放すようなひとじゃ……」
「もうリーディングはいいから! そろそろお昼に行こうよ~」
カナルとのガチバトル(?)の疲労をまったく見せない飯尾が、見ていただけなのに疲労と空腹を感じている私へ、涼しげな微笑みを向けた。
「いま食べたいもの、当ててあげるよ。丼ものチェーン店のランチセット。安くて早くてうまいけど、映えないやつ」
……これはあきらかなホット・リーディングだ。(こんなのいつ愛李に話したんだっけ。しかもそんなどうでもいい情報、なんで覚えておくかな……。)