☆彡 13 ☆彡
電車に揺られながら、じっと手の平を見る。
手相に特に変化はない。
仕方なく手をおろし、ぼんやり窓の外を眺める。しだいにソワソワした気分がぶり返してきた。
「オレが占いに沼ったのは、好きな人を振り向かせるためだから」
ここ数日、あの台詞が永遠に脳内再生されている。
(だからあれは千晶さんのことだって。他の可能性なんてないってば)
停車駅が近付く電車と反対に、速度を上げた鼓動を深呼吸で落ち着けた。
ブレーキ音と振動の後。降車する人が途切れ、人の波が逆流する。
波の中から向けられた笑顔と目が合った瞬間。また鼓動が走りだした。
……無理。もういっそ、抑える努力を放棄しよう。
諦めた私は会うなり飯尾の手をとると、心臓が落ち着くまで手相チェックに没頭した。
☆彡
「思ったより人が多いね」
「今年はカードゲーム系のイベントも一緒にやってるらしいよ」
最寄り駅に降り立って、人の多さに驚く私に飯尾が説明する。
なるほど。言われてみれば、近付くにつれ電車内のそこかしこでそれっぽい会話が聴こえていた。
「占いモチーフのキャラや要素なんかがあるらしい。それでちょっとコラボ開催っぽくなって盛り上がってるみたいだ」
解説通り、二つのイベントが開催される直前のグロースサイト前は、かなりの人でごった返していた。
「うわ~~。行列、間違えないようにしないと」
「だね」
さて。占いフェス側の待ち行列はどこかな……、
きょろきょろしていると、ふいに片手にぬくもりが。
ぎょっとして隣を振り返る。私の反応に小首を傾げてみせた。
え? なにその「当然」って顔。
「はぐれたら大変だよ」
「い、いや、気を付けてれば大丈夫でしょ」
「だめ。……なんか今日、かわいいから余計だめ」
「っっ!???」
繋いだ手を軽く引き、顔を寄せてくる。
耳のそばで囁かれた音声情報に、私はやんわりパニックに陥った。
かわいい? かわいいって何?? かわいいの定義って???
(――ふっ、服! たぶん服のこと! 親友を疑うのはよくないけど。実は私もこれ、本当にただのクラスメイトの最適解か?って思ったから!!)
いかにもデートっぽい感じではないカジュアルコーデ。だけど袖がなんかこうフンワリして、背中側にさりげなくリボンがあったり……。
こればかりは他力本願でどうにかしようとした、自業自得ってやつだろう。これからはファッション系、少しは勉強しようかな。
そうしてる間にも駅の方からどんどん人がやってきた。
また指を絡められたら困る。どこまで本気かわからない発言を思考の外へ追いやると、混雑が落ち着くまでは大人しく従うことにした。
☆彡
会場を軽くひと回りして。
パワーストーンの手作りブレスレット体験コーナーで、かなり真剣に黙々とハンドメイドに打ちこんで。
(時間をかけたかいあって、満足の出来になって嬉しい。飯尾はセンスよくダーク系でまとめたのはいいんだけど、案外手先は不器用だった。)
「次どこ見る?」
「うーん。あ、こことか面白そう」
「どこ……、っ!?」
壁際で一緒にパンフレットを覗きこんでいると。
バタバタと足音が近付いてきたと思ったとたん、片側からきた衝撃に、飯尾の身体が一瞬ぐらっと揺れた。
「もぉ~~、探したよぉ! 足めっちゃ痛いんですけどー!!」
片腕に両手を絡め、勢いよく抱きついてきたのは、顔の強さが飯尾と同レベルの美少女だった。
高く甘く、愛らしい声。歩いていた人たちが立ち止まり、こちらを振り返る。
美男美女に注目が集まるなか。かすかにしかめた顔をちょっと後ろに引いて、飯尾が隣を見た。
「は? なにあんた……」
「ハイハイ遅刻の件は謝りますーごめんごめんー。ほら、早くはじめないと時間なくなっちゃうっ!」
「ちょ……おいっ!?」
いきなりとびついてきた美少女に腕を引っ張られ。
なすすべもなく引きずられていく(かわいい顔して力強いな?)珍しく焦り顔の飯尾を、私はその場でポカンと見送った。