STALEMATE
今回もよろしくお願いします。
「皆様、大変お待たせいたしました」
別室から、着替えを終えたクリスタが出てきた。白いドレスと銀の鎧をニコイチしたような見た目の鎧だ。この鎧はさっき僕が作ったものだ。基本的に防御力に振って調整した術式を組み込んである。表面が構造色っぽくキラキラ反射するのは貝の真珠層を応用した素材でできているからだし、腰や胸元に魔力鉱の結晶を装飾として配置しているのはいざとなったらそこから魔力を消費して防御魔法を展開するためだ。象徴としてのモチーフを追加するために、全体的なシルエットはダゴン王家のシンボルである白百合をモデルにしている。
「イズ、すごいなこれ!いつの間にこんな良い鎧を用意したんだ?!」
「私が研究している魔導式強化外殻を少し改造しました。クリスタ殿下、アズラエル殿下を持ち上げてみてください」
クリスタがアズラエルの体の左右に手を回す。
「ええ、いいですけど…。私、アズを持ち上げられるほどの力は…」
次の瞬間、アズラエルの身体は宙を舞っていた。
「…有ったわ」
クリスタは性能を試すようにそこらじゅうを走り回っている。
「扱い方には慣れが必要ですが、どうでしょう、お気に召したでしょうか」
「…サイコーよ。私も前に立って戦うわ」
ああ、ダメだ。完全に狂戦士の目だ。今までは素の身体能力が低くてあんまり表に出てなかったけど、この人の素は間違いなく狂戦士だ。
「アズラエル殿下、その…すごい、ですね…」
「はっはっは、そうだろ?幼いころ何度クリスタに泣かされたことか…」
たぶんこの二人が結婚したら、アズラエルは完全に嫁の尻に敷かれるパターンだと思う。
「ま、まあ、クリスタ殿下が本当に前線に立つことが無いよう、我々が全力を尽くしますので…」
武力を持っちゃダメな人に武力持たせちゃった。
というか、本当はクリスタを戦わせるためにこの鎧を作ったのだ。「正義のもと戦う王女」というわかりやすいアイコンを作って人を集めるのもそうだし、何より彼女自身を本当に決め手にするかもしれない。
「作戦は、先程の軍議のとおりです。さて、先を急ぎましょうか」
「ええ、そうですね」
今回の作戦の要はクリスタというシンボルだ。戦闘に特化したスコーピオン小隊以外のレイヴンの隊員たちに、「生存したクリスタがシャルンホルストで兵を挙げる準備をしている」という噂を流させている。じきにアーディル派にも伝わるだろうから、ここまで来たら普通はスピード勝負だが…。
「妨害工作の方はどうでしょうか?」
アレウロが心配そうに聞いてくる。
「問題ないですよ。アケメネス周辺にある兵站のうち23%を処分し、補給ルートのうち15%で道を潰してあります。補給スピードが31%落ちているので、少なく見積もっても敵の挙兵まであと1ヶ月半ほどあります」
補給を削っていた理由その一、時間稼ぎ。軍は補給が命だ。補給を叩けばどんなに強い騎馬隊でも一撃で瓦解する。ただ、勝った後のことも考えて一度にすべて処理せずに真綿でじわじわと首を絞めていく方針だ。
* * *
ダゴン王国南部某所、アーディル派の兵士の詰め所。
「最近、メシが少ねえなあ…。出兵も近いって言うのに…。」
中年の歩兵が、配給された小さなパンを見て呟く。
「しょうがないじゃないですか。最近火事とか土砂崩れが立て続けに起こってるらしいですよ」
若い兵士が話しかけてくる。
「しょうがないって言ってもなあ。俺達は身体が資本なんだし、補給位はちゃんとしてほしいよ」
「…聞いたことありますか?『クリスタ王女は神に守られてる』って噂」
「…何だそれ」
若い兵士が顔を近づける。
「近頃、南部の前線に送られる予定の物資が立て続けに事故が起きてだめになってるらしいんです。だから、神様がクリスタ王女を守るためにそうやって運命を歪めてるんじゃないかって…」
「よせやい、あるはずないだろそんなこと」
しかし、中年兵士自身も補給のことといい自らの中にアーディルの政策のことといい疑念がないわけではなかった。
「シャルンホルストには、西から大量に食料が運び込まれているらしいですぜ。食い物欲しさに脱走してクリスタ王女につく兵士も多いんだとか」
「こんなとこでよせ。お上に聞かれたらめんどくさいことになる」
しかし飢えている彼らには、豊富な食料があるという噂はそれだけで甘美な囁きに聞こえた。
(脱走、か…)
悪くない、と自分の心の中でそうけじめを付けて中年兵士は物見櫓に戻った。
* * *
僕らは20日ほどかけてシャルンホルストに入城した。クリスタの軍隊運用がかなりうまく、士気が高い状態をかなり長期間維持できたため予定よりも3日ほど早く着いた。
「クリスタ殿下、よくぞお戻りで!」
「お待ちしておりましたぞ!」
市民たちがクリスタを歓迎するパレードの準備をしていた。さすがクリスタだ。配下の領地では公正な政治を敷き、生活必需品の取引量を増やして経済を回す方針で運営していたらしい。当然市民の生活は豊かになるし、クリスタの支持率も上がる。初期は上層部にあまり利益が入ってこないのがデメリットだが、クリスタはあまり気にしてないのだろう。
シャルンホルスト城の前の広場で、クリスタが兵士たちに呼びかける。
「皆様、長旅お疲れさまでした。すぐに夕食を用意させますので、今日と明日はしっかり休んで戦いに備えてください」
自らの利益を顧みず、民のために惜しみない努力をする。指導者のあるべき姿だが、その正反対を追求するのがアーディル派だ。そんなことを考えながら、無線でレイヴン全体に指示を送る。
〘レラティビティだ。君たちの仕事は、敵の目を潰すこと。シャルンホルストから60キロ以内の敵の詰め所と斥候部隊を見つけ次第叩け〙
〘〘〘了解〙〙〙
一応レーレライに許可を取って、スコーピオン以外の各小隊長とその副官にもインカムを渡してある。
「さてと…、練兵に補給のチェック、やることが多すぎる…」
少しぼやいて、僕はすぐ仕事に戻った。
* * *
「やっこさんのお出ましだ、イズ」
アズラエルが前方を見据えた。
2週間後、僕らはクリスタ派の軍勢6万を率いてアケメネスに向けて出兵した。「クリスタがシャルンホルストで塀を集めている」という情報を大々的に広めたら、わずか1週間で総勢4万ほどのクリスタ派の勢力が集まった。その後も兵は増え続け、シャルンホルストにいた1万と合わせると全部で6万人を超える軍になった。
ここまで軍が大きくなると、もう隠し通すことはできない。すぐにでも敵はシャルンホルストに攻め込むだろう。ならばこちら側からアケメネスに赴き、いきなり最終決戦に持ち込んだほうが良いと結論づけた。
「イスラフェル殿、本当にここで良いんですね?」
アレウロがまたも心配そうに聞いてくる。それもそのはず、ここはアケメネス正門の眼の前だ。僕らはまず、ここに全軍を集め、隊列を整えて突入準備をする。だが、そんな悠長な準備をアケメネス内部の兵と百戦錬磨の大将軍ハルブが許してくれるはずもなく。すぐに門が開いて、10万の大軍が襲いかかってきた。
「大丈夫です。もちろんアレも想定内」
門から敵が溢れ出してくるのを見て、僕は後退の合図を出す。クリスタ軍は最初じわじわと、やがて全力で後ろに下がり始めた。少し走ると、戦場はやがて南の丘陵地帯に移り変わる。僕はすぐに軍を2万ずつ3つに分け、丘陵地帯の中の3つの丘の上に陣を構えた。そこから左右に軍を広げ、あらかじめ作っていた砦に兵を素早く配置する。敵はまんまと誘い込まれ、瞬く間に敵軍を3方から閉じ込めるクモの巣のような陣形が生まれてしまった。敵は何度か周りの陣をつついたが無理やり道をこじ開けるのを諦めたらしく、膠着状態になってしまった。
うん、これでいい。
読んでくださり、ありがとうございました。
「機動戦士ガンダム 閃光のハサウェイ キルケーの魔女」見てきました。アリュゼウスに脳ミソ焼かれたので、絶対hgアリュゼウス買います。
カクヨムで新連載初めました。僕の性癖を詰め込んだ作品なので、ぜひ呼んでみてください。
「ヤンデレ母娘と彼女と僕と」
https://kakuyomu.jp/works/822139843293640286




