NERVOUS EXCITEMENT
今回もよろしくお願いします。
ちゃんとした耐G設備を組み込んだおかげで、帰り道はマッハ5まで出せるようになった。僕らは十数分でアル=イスカンダリーヤ近傍まで帰ってこれた。しかし、町中にブライトバードを持ち込むわけには行かない。これからどうやって都市の中まで行こうか?
…そうだ。
「もうすぐアル=イスカンダリーヤだが、とりあえず近くで降りて王城までは馬で向かう。協力者を頼って馬を借りることになっているから、そこからは彼に任せよう」
そう言って僕が降り立ったのはレラティビティ邸だった。急いでコアユニットから出てアーマーを転送して軍服に着直し、さも今まで待っていたかのような立ち方で屋敷の前に立つ。懐からコントローラーを出し、遠隔でコックピットハッチを開いてアズラエル達を出迎える。
「サイエンティストから事情は聞いております。厩はこちらへ」
「協力者って君だったのか!」
「それについてはおいおいお話しします。今は早く次にすべき行動を考えましょう」
僕はすでに真っ暗な夕闇の中馬を彼らに一頭ずつあて、駆け足で王城まで急いだ。
「イスラフェル・フォン・レラティビティ一等将校だ。急ぎの用で国王陛下までお取次ぎ願う」
王城の門の前で守衛にそう言うと大きな音を立てて扉が開き、ストレートで国王執務室まで通された。一等将校まで来ると大体のことは顔パスで通してもらえるのだ。
「イスラフェル・フォン・レラティビティ一等魔術将校が参りました」
執事が扉の前で呼びかけた直後、焦った様子のヴァサーゴが自ら執務室の扉を開けて飛び出してきた。
「息子は! アズラエルは無事か?!」
「ええ父上、この通りピンピンしておりますよ」
どうしようもないほど親バカな国王は、僕とクリスタを放ってアズラエルと熱い抱擁を交わす。親子の再会だ、邪魔するのはヤボだろう。
「ああ、それとイスラフェル、協力に感謝する」
一応今の状況を察して、サイエンティストについてのことには触れないでおいてくれた。
「ご無沙汰しております。助けてくださり、大変感謝しております」
「陛下、お初にお目にかかります!アレウロ・フォン・ナッジスパロウと申します!」
クリスタは礼儀正しくお辞儀をし、アレウロは慌てて最敬礼した。
「いや、気にするな。聡明で頼れるそなたが危機となれば、アスターテにとっても大きな痛手だ。それとナッジスパロウ将軍、話はよく聞いておるぞ」
その間もアズラエルはヴァサーゴにきつく締め上げられたままだ。
「さてと、これからどうしようか…?」
「僭越ながら、献策をしてもよろしいでしょうか」
「よし、聞こう。入ってきてくれ。それとクリスタ殿とナッジスパロウ将軍、こちらでできうる限り最高の宿を用意する。アズラエルも疲れているだろうから、クリスタ殿たちと共に今のうちに休んでおくといい」
「お気遣い、誠にありがとうございます」
クリスタは再び深く礼をした。
「さてと、策とはどんなものなのかな?うかつに手を出そうものならアスターテ全体が燃えかねんが…」
僕が執務室に入ってしばらくしてから到着したレーレライに、作戦を説明する。今日も少し遅くなりそうだ。
* * *
家に帰ると、数人の守衛以外はもうとっくに眠りについていた。うちの扉は閉めると僕以外開けられなくなってしまうので、基本的に開けっ放しにしている。それだと不用心なので夜間にIDタグを持っていない人間が屋敷の中に入ると警報が鳴るシステムを作ったのだが、今のところ通常通り機能してくれている。
皆を起こさないようにこっそり屋敷の中に入り、足音を立てずに寝室に入る。が…
次の瞬間、頭上から花瓶が落ちてきた。
「待ってラミィ!僕だ、イスラフェルだ!」
「!」
寝間着姿のラミィはそのまま僕に抱きついてキスをしてきた。
「ん…私以外の女の匂いがする」
ギク。
「もう二人目の妻を作ろうっての?まあいいけど。大体検討も付いてるし」
ギク。
「…怒ってる?」
「怒ってないわ」
怒ってる。めちゃくちゃ怒ってる。
「何も言わずに家を開けたのは謝る。今度どこかデートに行こう!」
「…そうね。でもとりあえず今日は寝ましょう」
この晩、僕はいつもより数段激しく搾り取られたのだった。
* * *
「さてと…やりますか」
2週間後、僕は単独で再び夜のアケメネスに訪れていた。アケメネスはダゴンのほぼ中央に位置している。クリスタ派の勢力は南部に多く、もし全面的に衝突するとなればアーディル派の最前線拠点はアケメネスだ。事実、ここより南にいるアーディル派への兵站の補給はすべてアケメネスから行われている。
手元の温湿度計で空気の状態を確認し、風向きを見る。アケメネスは内陸の都市だ。この時期かなり乾燥する。近くの山脈から強い季節風が吹き下ろしている。絶好の放火日和だ。
眼科の補給基地に音を立てないよう滑り込み、搬出を控えた食料の山を探し出す。そして風が吹き込むタイミングで近くのたいまつを倒し、火の粉が風に飛ばされて小麦粉の袋に引火するのを見届ける。
火事を起こすにしろ建物を壊すにしろ、ポイントは「ボヤ騒ぎ」程度に抑えること。人為的な干渉が無くても起こりそうな規模で、少しずつ兵糧を灰にする。決戦の日までこれを繰り返し、最前線の兵士への供給量をじわじわ削っていき、士気を下げるのだ。
結局のところ、人が戦うのは「食うため」だ。補給が潤沢でより良い暮らしをさせてくれる方に人はつきたがる。
この数日、補給経路上で土砂崩れを起こしたり湿地帯で荷車をひっくり返したりと地味な嫌がらせをかなりの数やってきた。前線の様子もチェックしているが、無気力な兵士が多い。行軍スピードが大幅に落ちていることがその最たる証明だろう。
僕は急いでルクソール城まで戻った。
ルクソールでは大忙しだった。補給物資が倉庫に入り切らず、中庭まではみ出して積み上げられている。10万の兵力を1カ月間維持するだけの物資がルクソールに集められていた。
クリスタ派のダゴン兵3000人が物資を護衛し、南部最大の城塞都市シャルンホルストに届ける。偽装工作で表向きは「ダゴン西部の穀倉地帯で調達した」となっているが、中身はバッチリアスターテ製だ。
「ご協力、ありがとうございます」
僕に挨拶してきたのはダゴン軍の一等前衛将校、バルタザール・イーレフェルトだ。
「今まで私たちダゴンとの関係はあまり良いとは言えなかったのに、何から何まで感謝いたします」
「いえいえ、これくらい朝飯前ですよ。隣人の危機を助けたいだけです」
はっきり言って後半は嘘だ。アズラエルとクリスタの婚約とは、アスターテとダゴンが同盟を結ぶことに
なる。そうなると国境の規制がゆるくなるから、双方への物流が活性化する。アル=イスカンダリーヤとアケメネスの往来には険しい山脈を迂回する大陸中央街道を使うが、最短経路は実はナハト・クリーフェンやテル・エル・アマルナを通るルートだ。正直道なき道とも例えられるルートだがおよそ700キロは短縮できる。そこで今僕が考えているある構想と合わせれば、ナハト・クリーフェンはとんでもない量の金を儲けることができる。
「あなたがバックアップについてくれるのならとても心強い。頼りにしています」
甲冑に身を包んだアレウロがやってきた。この軍の総大将は彼なので、行軍用の鎧は少しでも目立つように鏡面加工しておいた。今回僕は、先生の指示でアレウロの副官としてこの軍に同行することになった。表向きには、ダゴン駐在官である僕をアレウロが登用したという体だ。
「しかもあの”砕剣”のキリルのお墨付きときている」
「いやあ、先生が私を買いかぶりすぎているだけですよ」
そして今回最大の不安材料、アズラエル。あまりにも落ち着かないので、それを見かねたヴァサーゴが「ここまで来たら最後まで自分でケリを付けたほうがいい」と同行させたのだ。僕は初めから名前と顔が割れているからある意味心配はないが、アズラエルが協力しているとバレたら即座に全面戦争に…。ああ、もう考えたくもない。
「なあ、着替えはこれでいいか。どんな食事がでるんだろう?なあイズ、なあ」
落ち着かない。魔物大戦のときはあれだけ落ち着いていたのに、いざ自分が前線に出るとなるとガクブルだ。レーレライには「ゼッッッッタイ殿下から目を離すなよ」っときつく言いつけられた。そのせいでレイヴンはスコーピオン小隊の他にも2つ別の小隊を合同で任務に当たらせるらしい。こんな規模の任務、僕は初めてだ。
読んでくださり、ありがとうございました。
共通テスト、英語リーディングで大爆死しました。誰か助けてください(悲鳴)。
カクヨムで新連載初めました。僕の性癖を詰め込んだ作品なので、ぜひ呼んでみてください。
「ヤンデレ母娘と彼女と僕と」
https://kakuyomu.jp/works/822139843293640286




