SAGITTARIUS
今回もよろしくお願いします。
サジタリウスはなおも矢の雨を降らせる。僕は避けきれない矢を叩き切って距離を詰めながら、装甲の隙間に斬撃を入れ続ける。それにしても、警備用の魔道具にしてはやけに硬い。さてはこいつ…
「魔力鉱製、か」
魔力鉱を破壊するのはそう簡単なことではない。魔力を高密度に固めて個体にした、ある意味で他の物質とは存在原理が大きく異なる物質だ。魔法・物理に対して大きな耐性がある。だが、逆に言えば魔法・物理の両方で同時に同じ点に許容量を超える負荷をかければ破壊も可能だ。一応策はあるが完全ではない。装甲の薄い部分を見極めてからにしたい。
サジタリウスは細かい矢では決め手にならないと踏んだのか、手に持っている弓で巨大な矢を引き、僕に狙いを定めて撃ってきた。恐ろしい威力だが、弓の構造と本体の魔力量から見るにまだフルチャージじゃないはずだ。魔力を溜め込む部分の魔力鉱にはまだ余裕があるらしい。おそらく本気で撃ったら獄炎魔力砲と同じくらいの威力になるのではないだろうか?
「イズ、大丈夫?」
「ラミィ、危ない!」
ラミィが様子を見に屋敷の中に入ってきた。しかし、運の悪いことに矢が一本ラミィに迫る。
「大丈夫よ。鍛えてるから」
ラミィは歩みを止めず、呪文を唱えた。
『蜃気蛟』
矢がラミィに当たるその瞬間ラミィの体の一部が煙のように霧散し、矢が通り過ぎた後には何事もなかったかのように元通りになっていた。サジタリウスはラミィに気づいて矢の奔流をそちらに向けるが、そのすべてがことごとくラミィの身体をすり抜けてしまう。
「え、マジで?」
その魔法のあまりの強力さに思わず感嘆の息を漏らす。おそらく蜃気楼の「姿を消す」という効果を「実体を消す」という効果に発展させ、攻撃の無効化という応用につなげているのだろう。それにしても恐ろしく強い能力だ。
「それじゃ、合わせようか」
「まかせて!」
ラミィは空中に飛び上がり、そこで自分の姿を消す。そしてまた別のポイントで一瞬姿を表し、サジタリウスの注意を的確に引いていく。だがしかし、無規則に姿を表しているわけではないようだ。どうやら常に僕が敵の死角に入るようにコントロールしてくれるらしい。なら僕のやることは決まっている。魔力鉱の形状を素早く把握する方法はただ一つ。自分の魔力を流せば内部の形状、つまりどの部分の魔力鉱が薄いかすぐにわかるのだ。
ラミィは反撃に出ようと収納魔法を起動し、弓を取り出した。彼女の得物はレイピアだったはずだが、いつの間に切り替えたんだろうか。
矢に自分の魔力を込めながら弓を構えてサジタリウスの目に狙いを定め、最大限引き絞って渾身の矢を放つ。あんなにわかりやすい射線で撃とうものならすぐに防がれそうなものだが、彼女が園心配をする必要はなかった。ラミィの矢は放たれた直後に非実体化し、矢を払い落とそうと振り上げられたサジタリウスの腕をすり抜けた。目玉に直撃する直前に再び実体化して片目の視力を奪ってしまった。
僕はその隙を見逃さず後ろからサジタリウスに急接近して馬の腰に当たる部分に触れて魔力を通す。
見つけた。前足の間、この部分だけ魔力鉱の厚みが1センチほどになっている。
『物質創造』
全長30センチほどの長さの鉄製の尖った砲弾を手元に生成し、それと同時に弾丸の周囲に強力な磁場を作り出す。僕の魔力量に物を言わせて現代文明では再現できないほどの磁場を完璧に制御する。実体のあるレールじゃないから摩擦によるロスはほぼゼロ、ならば砲弾の初速はマッハ50を超える。弾丸の表面に防御魔法を貼っておけば弾本体が加速で壊れることはないし、鉄に半分魔力鉱を混ぜておけば内部に大量の魔力を溜め込むことができる。
『超高初速電磁砲』
ラミィが気を引いているうちにそう唱えながらサジタリウスの正面直下に回り込み、弾丸を磁力で弾き出して装甲の薄い前足の間にぶち込んだ。弾丸はサジタリウスをまっすぐに貫き、サジタリウスは力なく床に倒れ込んだ。
「それにしても、ものすごい魔道具だなあ…」
僕が感心しながら胴体にぽっかり空いた弾痕の中からサジタリウスの内部を除いていると、装甲の最奥部の空間に本のようなものを見つけた。
「これは…」
革製の表紙にはタイトルも著者名も書かれていない。虫食いや損傷も見当たらないし、紙の状態からするにおよそ10年ほど前の本なのではなかろうか?僕は恐る恐る本を開いた。
「!…まさか!」
そのあまりの内容に、僕はすぐに収納魔法に本を押し込んだ。
* * *
ラミィと一緒に近くにあったソファに腰掛けて休息を取っていると、程なくして30人ほどの兵士が王都から駆けつけてきた。
「お疲れ様です、レラティビティ一等将校!」
最高位と思われる騎士は、明朗快活な返事をする好青年だった。関係者に一通り事情聴取が済まされた後、サジタリウスの残骸の処理についての話になった。
「こいつ、どうやら普通の魔道具じゃないっぽいからシルベライセン将軍のところに持って行っといてくれる?」
まあ、魔道具であるかどうかも微妙なところだが。
「は!」
ぞろぞろと腕っぷしに自身のある兵士たちが出てきて、5、6トンはありそうなサジタリウスの残骸を持ち上げて大きな荷車に乗せた。手際よく幌が被せられて馬が10頭掛かりで王都へ引いていった。
「それはそうと」
僕は戦闘があったと聞いて駆けつけた中年商人に向き直った。
「この物件、修理しなくていいからすこしまけてくれないかな」
「ええ、もちろんです!」
商人は事後対応に追われて脂汗をかきながらそう答えた。
これで王都周辺での僕の屋敷をゲットできた。
「ラミィ、今度は君の家族をなんとかしなきゃな」
「ええ…」
彼女はあまり浮かない顔をしていた。
読んでくださり、ありがとうございました。
蛟←この漢字、「みずち」って読むらしいです。今回調べて初めて知りました。




