SCIENCE BARES ITS FANGS
今回もよろしくお願いします。
脇腹の傷はあったが魔力そのものはあまり消費していなかったので、シュヴァルツァー要塞周辺まで数秒で帰ることは難しくなかった。問題はそのあとだ。
「あー…マズい…頭がぼーっと…」
高熱、頭痛、悪寒、低血圧。モノクローナル抗体の過剰投与の典型的な副作用だ。命に関わるアナフィラキシー反応は出なかったが、ほぼ間違いなく中等度のサイトカイン放出症候群を引き起こしてる。もともと基礎疾患もないし免疫にも問題ない肉体、なおかつ原因となる薬剤の投与はもう終わってるから数日間様子を見ながらステロイドを摂取すれば治る。だがしばらくは倦怠感と微熱が収まらないだろう。
視界がぼやけて膝から崩れ落ち、地面にSTVSを突き立ててなんとか意識を保つ。また前回のように意識を失って周りに迷惑をかけたら困る。
「イズ!」
遠くで僕を呼ぶ声が聞こえる。
「イズ、きこえる?大丈夫?!」
ああ、ラミィか。おそらく戦況の確認のために戦場を飛び回っていたのだろう。
「大丈夫…だから…いったん本陣に…」
「わかった、わかったから!」
ラミィはSTVSを拾い、僕を肩で支えて要塞の中まで引きずっていった。
「イズ、大丈夫か?!」
門をくぐるなりいきなり倒れ込んだ僕にアズラエルが駆け寄ってくる。僕の脇腹の傷を見てぎょっとしている様子だ。
「せ…戦況は…」
なんとか腹の底から声を出す。喋るたびに口の端から血が滲んだ。
「左翼ではジブリル、エスターライヒ、ペルリンガーの3人が悪魔マルファスを討伐。右翼ではシルベライセン将軍が悪魔ストラスを倒した。魔物たちは統制を失って全面的に瓦解、我が軍は殲滅戦に移って順調に魔物の数を減らしてる。僕らはこの戦いに勝ったんだ!」
「被害は…」
「全体では死者およそ2000、重傷者400、軽傷者5500。ジブリルはアストラル魔法の反動でまだ意識を失っているが、幹部は全員生存だ」
「…じゃあ…後は任せます…」
「おい、ここで君が死んだら幹部全員生存が達成できなくなるぞ。こんなところで終わるタマじゃないだろう!おい、寝るなイズ!」
眠るように僕は気を失った。
* * *
「医療兵を!イズは大丈夫なのか?!」
アズラエルはイスラフェルが意識を失ったのを見て大慌てで走り回る。
「ご安心を。気を失っているだけのようです」
冷静に脈を診たラミィが、イスラフェルを運ばれてきた担架の上に寝かせながらアズラエルを落ち着ける。
「脇腹の刺し傷は深いですが、どうやら内臓は傷ついて居ないようです。毒の影響もあまりありません。傷口を縫っておけば2週間ちょっとで歩けるようになりますよ」
「ケヒト先生、イズをよろしく頼む」
「ええ、私の医師としての誇りをかけて完璧に治療を施させていただきます」
アズラエルは自身の主治医でもあるケヒトにイスラフェルを託した。
「イズが戦っていた悪魔、毒の魔法を使っていたんですよ」
アズラエルと同じくその場に残されたラミィが話し始めた。
「ああ、聞いているよ」
「それもただの毒じゃありませんでした。少しでも吸い込んだだけで死んでしまうような即効性の致死毒です。接近戦メインのイズは、ああいう広範囲に致死性の攻撃をばら撒いてくるような相手とはかなり相性が悪いはずなんです」
「…何が言いたいんだ?」
「あれほどの至近距離で切り合っていたイズは確実に大量の毒を吸い込んでます。それなのに毒の影響がほとんど現れなかった。毒が効きにくい体質ってだけじゃ説明がつきません」
アズラエルは考え込んだ。
「…確かに。まあ本人に聞いてみるしかないだろうが…」
「ですね」
それにしても一体、彼は何者なんだ?アズラエルは一瞬そう考え、そのあとすぐに庶務に戻った。
* * *
「ふう、ちょっとは楽になったなあ」
目が覚めると、僕は幹部用のテントの中でベッドに寝ていた。傍らでは、ラミィが椅子に座ってうとうとしていた。
「ラミィ、今日って何日…」
僕が上半身を起こして話しかけたとたんラミィが目を覚まし、僕に飛びついて唇にキスをしてきた。
「…毎回心配かけてごめん」
「もう慣れたわ」
「怒ってる?」
「別に」
「こんどウミネコの日替わり定食おごるよ」
「当たり前でしょ。…イズが戦わなくて済む方法ってないの?」
「悪いけど無いかな、ごめん」
「そう…」
ラミィはそのかすかに震える手で僕を強く抱きしめ、そしてベッドに押し倒した。まるで、ほつれてしまいそうな糸を必死に繋ぎ留めるかのように。
「まだ回復しきってないだろうに、引っ張り出してしまって悪いね」
アズラエルが僕を会議に呼んだ。
「王都からの伝書鳩の情報によると、転送魔法を使用した敵が王城に直接乗り込んできたそうだが…」
その場にいた全員が戦慄した。
「まさか…」
震える声でエスターライヒが続きを聞く。
「その場にいた親衛隊員のおかげで事なきを得たらしい。建物に多少の被害はあったそうだが、犠牲者はいなかった」
全員が胸を撫で下ろした。
「それと今回の戦闘での箝口令が解除された。アスターテ勝利の報は今頃国中を巡ってるはずだ。王都に戻ったらメインストリートで歓迎パレードになるんじゃないかな。皆の分も昇進を推薦しておくよ。先生、負傷者についてはどうなったかな?」
「空になった物資用の馬車がかなりございますので、そこに歩けない者を乗せれば長距離移動ができるくらいに皆体力が戻ってきております。ですが念の為あと1週間ほどは療養したほうが良いかと」
「ありがとう。では1週間後、1月29日に出発しよう。それまでは皆準備しつつ休んでくれ。城主殿、施設への被害はどうだ?」
「はっ、要塞前の地形についても着々と復旧作業が続いております。このまま行けば半年ほどで元通りでしょう」
「それは良かった。私からも国王陛下にご支援をお願いしておこう」
「感謝いたします」
「話は以上なんだが…、イズ、少し残ってくれ」
「は」
会議はそこでお開きとなった。
「イズ、君は一体何者なんだ?」
会議が終わったあと、突然アズラエルに真面目な顔でそう言われた。
「何者、といいますと…」
「僕は君があまりにも強すぎる気がするんだ。同じ人間とは思えないほどにね」
「私から見れば、殿下も十分恐れるべき強さですよ」
「いや、そうじゃない。ただ君が魔法という理の外側にいるような気がしてな。なんというか、君の使う魔法は魔法じゃないというか…」
「まあ、半分くらいは魔法じゃありませんよ。科学です」
「カガク…?」
「自然の中の法則を探し、体系化する学問です。私はそれを魔法で再現しているだけですよ。固有魔法は早く走るくらいしかありませんし」
「それだけであれほどの力を発揮できるなら、だれも苦労はしないさ」
「そうでもありません。自然の力は強大です。時には心強い味方にもなるし時には恐ろしい敵にもなる気まぐれなやつなんですよ。科学はその力を人間に垣間見せてくれる道具です。だけど、それを善行に役立てるか悪行のための武器にしてしまうのかは私達次第だと思っています」
「そうか。少し科学に興味が湧いたよ」
「それは良いですね。科学はいつでも、どんな人にだってその門戸を開いていますよ」
「…これだけは聞いておくよ。君はこのアスターテを陥れることはないんだな?」
「もちろんです。私の騎士道にかけて、そしてあなたの友として」
「…そう言ってくれて嬉しいよ」
お久しぶりです。もう9月に入ったのにまだ暑いですね。エアコンを手放せません。家ではエアコンをガンガンに聞かせた部屋で犬が死体のように寝てます。
最近エグゼイドのハイパー無慈悲を母に見せたら「チャラ男過ぎてキモい」って言われました。




