EMBRACED BY THE SUNLIGHT
今週もよろしくお願いします。
『神稀…解放』
ジブリルの顔に花の形の魔法陣が浮かんだ。
途端に地面が盛り上がり、さながら世界樹のような巨木が天に向かって伸び始めた。その根元から広大な花畑が広がり、まるで春の陽気のような温かさで戦場全体を包んだ。
『”ユグドラシル・メギスト”』
固有術式”大自然”が新生代の肉食獣メギストテリウムの形に結晶し、ジブリルの周りで走り回る。
「なんだこれは?!死にかけの魔術師にまだこんな力が?!」
マルファスは明らかに動揺している。
ふと、ジブリルの横に寝ていたペルリンガーとエスターライヒが目を覚ました。
「あたたかい…」
ペルリンガーはそうつぶやき、肉体の損傷具合を確認するために腹部に触れた。だが、無い。まるで激しい戦闘などしていなかったかのように、きれいさっぱりケガが消えている。それどころじゃない。意識を失う寸前だったレベルの魔力残量もすっかり回復しているのだ。さっきまで砕けた肋骨が内臓に刺さってとてつもない痛みを発していたのに。それが嘘のようだ。ほかにも瀕死の重傷を負って倒れていた兵が続々と花畑の中で起き上がった。だが、よく見るとそれだけではなかった。魔物を覆った花々がそれらに根を張り、生命を吸い上げている。
「どうやらこの花が敵の魔力や生命力を吸って、それを味方に再分配して回復させてるらしいな」
エスターライヒもそう推測を述べながら起き上がった。折られて歪んでしまっていたはずの背骨が、まっすぐに修復されている。
「この時代3人目のアストラル魔法の使用者がまさか学生とはね。俺たちは今まさに歴史を見ているのかもしれない」
そんな会話を交わしながら、ジブリルとマルファスの一騎打ちに目をやる。
「バカな、ありえん…!」
大木の根にがんじがらめにされ花に魔力と生命力を吸い取られて、マルファスの城がボロボロと崩れて核の中からマルファスの本体が転げ落ちてくるが、すぐに花に覆われてしまう。いかにも瀕死というような様子だ。
「私が…こんな格下に…」
マルファスは最後の気力を振り絞って声を出しているようだ。
「『強さ』っていうのは『何を背負ってるか』なんだ。その背中に何も背負わず弱者を弱者と蔑み顧みようともしないお前は、僕に勝つことは無い」
静かに、だが強くそう語ったジブリルは片手剣の一突きでマルファスの心臓を貫き、息の根を止めた。それと同時に限界を迎えていたジブリルの体はアストラル魔法を使用した反動で力尽き、気絶してしまった。
「気絶しているだけだ。だけど、どこかでしっかり休ませた方がいい。軍医はいるか?!」
ペルリンガーが冷静にジブリルの脈をみて指示を出す。
ほどなくして担架を担いだ軍医と看護師がやってきて、ジブリルを担いで要塞の中に運んで行った。
「しっかし、術式が消えてもこの花畑は消えないんですね」
先ほどまで戦場だったところには、巨大樹とと豊かな花畑が広がっていた。
* * *
「こりゃ、あの坊主たちでは手に負えんな」
先ほどから彼女の脳内に響く不協和音のような鳴き声に苦しめられながらコルネリアはそうつぶやく。
「精神に干渉する魔法と聞いていたが、まさかこれほど厄介だとは」
コルネリアの中で「この魔法は使ってもよいのか?」「そもそもこんな前線に魔術将軍たる自分が出しゃばってきてもいいのか?」「軍人という肩書を盾にまた人殺しをするのか?」と、終わりのない疑念が濃い渦を巻いている。これが悪魔ストラスの固有魔法なのだ。
「人の心はひどくもろい。生物の中でも特にもろい。多少の”不安”や”恐怖”を植え付けただけですぐにひびが入り、使い物にならなくなってしまう」
目の前で空中に制止する巨大な黒いフクロウが、およそ正常なものとは思えない不気味な声で語りかけてくる。
「お前もそうだ。見るからに手練れの魔術師だが、先ほどから”疑念”のせいでまるで戦いに集中できてない」
「黙れ!とことん趣味の悪い魔法だ。反吐が出る!」
大波でさらってストラス本体を引きちぎろうとするが、全く照準が定まらない。
”お前がその手で命を奪ったのだ”
”お前さえいなければ”
”悲劇は起こらなかった”
”お前が生まれてこなければ”
目の前にかつての戦友が浮かんでは消えていく。その大部分は肉体にひどい損傷を追っている。
「そんなことはもうわかっている!!」
幻影を振り払うように、コルネリアは怒鳴る。
「私は何も言っていない。ただお前に”後悔”を植え付けただけだ。お前が見ているのは自らが生み出した幻覚だ」
「うるさい!」
コルネリアの目の奥に8年前の景色が浮かんだ。
* * *
「コルネリア、来るな!ここは危険だ!」
当時の魔術将軍でありコルネリアの恋人でもあったドミニク・ゾンネが叫ぶ。周りに広がるのは廃墟と化しつつある要塞、そして焼け野原。彼らが対峙しているのは、悪魔だ。増援が必要という要請にコルネリアも飛んできたところだった。
「大丈夫、私なら…!」
コルネリアは彼女の中で最も強力な手札を切った。
『トライデント!』
水を三叉の槍の形状にまとめて、貫通力を極限まで高めた技だ。
「違う、そうじゃな…」
次の瞬間槍が悪魔アムドゥスキアスに触れ、その術式に巻き込まれた。
「そいつは周囲の魔力をため込んで一気に放出するんだ!」
「…へ?」
ドミニクがそう叫んだ瞬間、コルネリアの最後の一撃に含まれた魔力でアムドゥスキアスがため込んだ魔力が臨界に達し、周りにあるすべてを吹き飛ばした。ドミニクはとっさにコルネリアに覆いかぶさってかばった。
コルネリアが目を開くと、そこには左腕を吹き飛ばされ背中全体に破片が突き刺さったドミニクの姿があった。血が滝のように噴き出している。
「嘘…でしょ…」
周りは惨憺たるありさまだった。体の一部または大部分を吹き飛ばされた人の死体の数々、、形をとどめていない要塞の残骸、そしてもうすでに息を引き取った恋人。
彼女は怒り、悲しみ、憎んだ。仲間を奪った悪魔を、そして未熟さから何よりも大切な人の命を奪ってしまった自分を。感情に流されて不完全でまだ制御のできていないアストラル魔法を使用し、周囲の村ごとアムドゥスキアスを吹き飛ばした。我に返ったときには、そこはもうコルネリアが作り出した海に覆われていた。
後続の部隊が、冷たくなったドミニクを硬く抱きしめながら静かに涙を流しているコルネリアを保護した。
周りの景色が真っ白になり、目の前に一人の人物の後ろ姿が現れた。
「ドミニク…」
コルネリアはその懐かしい名を呼んだ。
「久しぶり。コニー」
ドミニクは振り返り、優しく微笑んだ。その声を聴いたとたんコルネリアの目から大粒の涙があふれだした。
「サーシャは元気かい?」
「ええ、元気よ…」
「なんでそんなに泣いてるんだい?」
「だって…あの時私が冷静になっていれば…」
「僕だって戦場に出ていたんだ、死ぬ覚悟なんていつでもできていたよ」
ドミニクはコルネリアに近づき、優しく抱きしめた。
「それにあいつは君の魔法じゃなきゃ倒せなかった。あの悪魔は君がいたからあそこで倒せたんだ。僕らだけで戦ってたらもっと多くの人が死んでたんじゃないかな」
「でも…でも…」
コルネリアの目から涙が止まらない。
「僕は死んだことを後悔してないよ。だって君を守れたんだから」
「そんなこと言わないでよ…私は…」
「僕は命を懸けて君とお腹のサーシャを守った。それはそのあと君が救った幾多の人を助けることにつながったんだ。むしろ魔術将軍”太陽”のドミニクとして誇りに思ってるよ。だけど、肝心の君はこんなところで泣いているだけというわけにはいかないだろう?ほら、あの悪魔は君にしか倒せないんだ」
ドミニクの後ろに、同じ部隊だった仲間たちの幻影が現れた。ドミニクはそっとコルネリアの後ろを指さした。
「行っておいで。僕らはいつでもここで君を見守ってるから」
「…うん」
ドミニクと死んでいった仲間の手がコルネリアの背中を力強く押し出す。
「…行ってくるね」
「行ってらっしゃい」
* * *
コルネリアは再びストラスを見すえた。その目はもう後ろを見てはいなかった。
「本当に、人間はもろいなあ…」
ストラスがコルネリアに”恐怖”を植え付けてきたが、コルネリアは全く動じない。足元の海を操作し、ストラスの肉体を水でとらえる。
「?!先ほどまで大泣きしていたのに…!なぜ…!」
「人だろうが悪魔だろうが、誰かの感情を弄ぶクソ野郎は絶対に生きては返さんぞ」
コルネリアは手元に三叉の槍の形に水を生成してストラスの心臓に向けて照準を合わせた。
『トライデント』
まるで竜のような水の奔流をまとった三叉の槍が目に留まらない速さでストラスに向かっていく。
「嫌だ、死にたくない、怖い、やめろ、やめてくれえええ!」
ストラスの断末魔が響き渡り、その直後に槍が心臓を貫いた。この日2体目の悪魔が討伐された。
読んでくださり、ありがとうございました。
コルネリアとドミニクのエピソードについてはメモの段階で本編の5倍くらいの量を考えていました。さすがにこの量を本編に丸ごとぶち込むわけにはいかないと思って今の量に抑えましたが、マジで出会いからドミニクが死んだあとサーシャが生まれるまで書いてました。なんかこのままメモの奥底に沈めておくのももったいないと思ったので、あとでスピンオフとして書きます(Notice-code:Ω最初のスピンオフがたった今製作決定いたしました)。
ちなみにドミニクのネーミング元は、ファーストネームがエウレカセブンのドミニク・ソレルでファミリーネームがドイツ語で太陽を表す「Sonne」です。




